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第10話
その日の打ち合わせでルカは専属モデルとして勤めてきた、ハイブランド『エリオット・ワン』の契約解除になる事を伝えられた。
「ちょっと待ってくれよ!なんで急に!」
マネージャーの紗栄子に問いただすと、
「落ち着いて、ルカ……!」
今にも喰ってかかりそうなルカの肩を掴み、ソファに座らせる。
「急ではないわ。前から話は出ていたの。あなたがショックを受けると思って言い出せずにいたの。ごめんなさい」
「そんな……」
エリオット・ワンは全世界の人たち憧れのハイブランドだ。Tシャツ一枚五万円、バッグに至って五十万前後が相場だ。そのエルオット・ワンとアンバサダー契約をして三年。本場パリでモデルとしてショーにだって出たことがある。エリオット・ワンを愛用する人の年齢層は幅広い。二十代の若者から四十代五十代の中年層だって十分身につけることができるブランドだ。契約して三年、年を追うごとに着こなす自信はあった。
(契約解除の理由が年のせいだとは言わせない……)
無意識に親指の爪を強く噛んだ。
「最近注目を浴びている、嵐というモデルをエリオット・ワンの日本の事業部長がいたく気に入ってしまったらしいの」
(嵐……)
最近注目の新人モデルだ。確かに上背も自分よりあるし、ビジュアルも整っている。ハーフで日本人離れした自分とは反対に、黒髪に黒い瞳のアジア人特有の顔立ちにがっちりした逞しい体格の嵐。まるきり正反対だった。
「日本で宣伝するなら親近感のある日本人がいいだろうって」
「俺も日本人だけど」
「国籍は日本人だけど、あなたはアメリカ人とのハーフでしょう」
アメリカの駐屯地近くの飲み屋で働いていた母親が、毎日アメリカの軍人とやりまくってできたのが自分だ。父親が誰かなんて分かりはしなかった。
「分かった、決まってしまった事は仕方ないさ」
あっさりとそう言い放ったルカに紗栄子は驚いている。
「随分聞き分けがいいのね」
「駄々を捏ねても変わるわけじゃないからな」
「そうね……その代わりとは言ってはなんだけど、ヴァニラ・オムの話を受けようと思ってるのだけど……」
さすがやり手のマネージャーだ。しっかり次の契約の話を持ってくる。それには感謝すべきだろう。
だがルカの頭にあるのは、嵐の事をノエルに早く話したい、という事だけだった。
「悔しい……!悔しい……!悔しいよ、ノエル……」
自宅に戻るなりルカはノエルに抱きつき泣き叫んだ。
「アイツが憎い……憎い……」
「可哀そうなルカ……ルカを悲しませる人間は僕が許さない……。ルカを悲しませる人は悪い人。悪い人は死んでもいいんだ。そうだよね?ルカ」
ノエルはルカの涙を舌先ですくい、そのまま口に含む。
「そう……悪い人は死んでもいいんだ……」
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