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第12話
ノエルは言葉を切ると、
「堕天使ルシファー……そうでしょう?ミカエル様」
ミカエルの顔が一瞬にして強張る。
「なぜそれを……もしやルシファー と会いましたね?」
ミカエルの言葉に、さぁ、と小首を傾ける。
「僕は、天使と堕天使の間に生まれた異端児。だから髪も瞳も黒く、羽も白くなかった。僕は天界の人質だった。悪魔たちの襲撃の盾にしようとしていたんだ……」
そう言ってノエルは悲しみと憎しみを込めた目をミカエルに向けた。
「ノエル!それは違います!利用しようとしていたのはルシファーの方です。あの日、ルシファーは貴方を攫い、貴方のその美貌を利用し、天使たちを堕天させようと企んでいたのです!」
「そんな事、今の僕にはもうどうでもいい。僕にはルカがいるから……ルカさえいればそれでいい。ねえルカ、ルカもそうでしょう?僕がいれば何もいらないよね?」
そんな問いに素直に頷けるはずもない。ルカの体が小刻みに震え出す。
突然目の前のミカエルが苦しみ出す。
「いけない……時間切れのようです。次、来る時までに改心なさい。そうすれば天界に戻れるチャンスをあげましょう」
そう言ってミカエルは消えていった。
「ルカ?大丈夫?震えてる」
ルカはそっとノエルの腕から抜け出し、
「どういう事なんだ……?記憶が戻っていた?それに、お前は人ではなくて天使だって?」
矢継ぎに質問を投げかける。ノエルは満面の笑みを浮かべている。その笑みが酷く不気味に映る。
「記憶は確かに戻っていたよ。正確には戻してもらったというのかな。三日前に、父親がここに来たんだ。迎えにね。もちろん、断ったよ。だってルカを置いて帰るわけにはいかないもの」
父親とはルシファーの事であろう。大天使でありながら神に背き堕天使となり、堕天使悪魔たちの王に君臨しているという、堕天使ルシファー。
「確かに僕は人ではない。天使でも堕天使でもない中途半端な存在。僕は天界で仮面を着けてずっと過ごしてた。理由はルカも嫉妬するこの美貌だよ」
そう言って美しい自分の顔に爪を立てるノエル。
自分がノエルの美しいその顔に嫉妬している事に気付いていたというのか。
「僕のこの顔は天使たちを惑わせる。皆、堕天してしまうんだ。天界にとって危険分子である僕は仮面を着けていなければならなかった。そんな僕は天使たちから仲間はずれにされていつも一人だった……けど、ルカに出会えた。ルカは僕の光だ」
ノエルはルカを抱きしめると頬ずりを繰り返す。
「僕、知ってたよ。ルカが僕に色々な嘘をついていた事。その嘘は僕にとって、とても価値があるものだった。だってルカの側にいられる理由になるから……ルカを愛してるから許してあげる。だからルカも僕をずっと愛していて。僕以外の誰かを見る事は許さないよ」
ノエルはルカの額に手をかざす。暖かいものが流れてきて心地よい眠気に襲われる。
「可哀そうで可愛い僕のルカ……」
遠くでノエルがそう呟いているのが聞こえた──。
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