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第2話 琥珀の独白
それから4年。中学を卒業し、入った高校も辞めてしまった琥珀にも、色々なことがあった。
18才になっていた。趣味のコスプレにのめり込んでいた。衣装作りも慣れたものだった。
「いい加減にしなさいよ。
そんな格好で外に出ないで。
近所の人に見られたら恥ずかしいわ。」
今日も母親のヒステリックな声が背中を殴る。母親は言葉で殴ってるのに気付かないんだ。サンドバッグにされて俺は返事が出来ない。
(聞こえない。聞かない効かない。
そんな事で負けねぇ。)
心の中で毒づく。心の中では何度も母親を殺してる。
母親と俺の、どっちが狂ってるんだろう。高校には居場所が無いって、いくら言ってもわかろうとしないから、勝手に行くのを止めた。
そしてリストカットでボロボロの手首を母親に見られた。母親は半狂乱になって俺を医者に連れて行った。心療内科。
医者は一通り話を聞いて、検査みたいな事をして、カウンセラーに交代した。
カウンセラーは若い男で、俺に子供の時からの事を順番に聞いてきた。そして
「琥珀さんって素敵な名前ですね。」
というので
「おじいちゃん、母の父親ですけど、そのおじいちゃんが付けてくれたそうです。」
「自分の名前は好きですか?
由来を聞いた事はある?」
「琥珀という名前は気に入ってる。
じいちゃんからいつも聞かされてた。
じいちゃんはスコッチウヰスキーが好きで、特にスコットランドにあるアイラ島のシングルモルトが好きだって言ってた。
小さな樽を取り寄せて、その原酒を舐めるように飲んでた。
俺はまだ飲めないけど、燻製みたいなスモーキーな香りを嗅がせてもらうのは好きだった。」
じいちゃんはアイラをアイレイって発音してた。樽の蛇口から専用の小さいグラスに注いで、それを光にかざして、
「ほら、これが琥珀色だ。長い時間をかけて樽の中で熟成した芳醇の色だよ。
これがアイレイの琥珀色だ。」
いつもそう言って香りを嗅がせてくれた。
俺はじいちゃんと過ごす時間が大好きだった。
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