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第3話 琥珀の独白 2

 大きくなるにつれて、母親は様々な習い事をさせて俺の時間を奪った。俺に何を期待しているのか。オレの人生に勝手な介入をしないでほしい。  学校に行かなくなったのは、イジメみたいなものだけど、イジメっていう言葉自体が何か見当違いな、もっと人間性を踏みにじるような、馬鹿馬鹿しくて陰湿なものだった。  イジメっていう言葉は軽すぎる。言葉の印象とは違って,もっと死にたくなるような事だ。  親に知られるのも嫌だった。初めは小さい事に思えたけど、だんだん耐え難いものになって行った。それほどみんなと違うわけではないのに、イジメのきっかけを探してる。  みんなが生贄を探して、ほんのわずかな違いをイジる。  一度目をつけられたらクラス全体が敵にまわる。クラス全員が無視する。そのくせ放っておいてくれない。SNSで捏造された情報が飛び交う。  心療内科ではカウンセラーが一通り話を聞いて、自分の感想や見解は一切話さず、大量の薬が出た。  俺は母親の目を盗んで、捨ててしまった。飲むと気持ちが楽になる薬も出てるよ、ってネットには書いてあるけど、心に働きかけるケミカルなものを摂取するのは怖い。  楽になれなくても俺はリストカットのほうを選ぶ。高校に入ってエスカレートした。  初めて手首をカッターで切ろうとした時、手首の太い血管は嫌がってるみたいに刃から逃げた。  カッターナイフしか持っていなかったから、カッターで死ぬのはかなり根性がいるなぁ、と思った。そしてほんの少し切っただけでもの凄く痛かった。カッターの刃先から逃げる自分の血管を見て、自分が愛おしく思えた。俺の心と関係なく、身体は生きようとしている。  人が死にたくなるのは、この世から消えて無くなりたいからだと思う。辛い悩みももうどうでもいい。もう疲れた。何もしたくない。そんな時、死、を思うのだ。生まれてきたくなかった、といつも思う。罰当たりかもしれないけど、生きる意味がわからない。  SNSには「死ね」とか「氏ね」とか、おまえには生きる価値がない、と山ほど書き込まれている。「SHINE」なんていうのもある。  死ね?シャイン?輝いてるのは誰? 痛烈な皮肉。これ書き込んでる人はどれほど価値のある人なのか? 「神」だな。そんな権利のある存在は「神」だよね。ネットの中には「神」がたくさんいるらしい。馬鹿馬鹿しいとわかっているけど、心は引き裂かれていく。

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