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第9話 石の橋
「えっ?玉梓に戸籍が無いって?
どういう事だよ。」
鍾馗が驚いて父に問いただす。
「鍾馗、落ち着いて聞いてくれ。
この神社の境内は混沌の世界なのだ。
普段は普通に人が出入りするが、また、結界にもなる。
拝殿の裏に森へ続く道があるだろう。
その先に石の橋がある。」
父、伊邪那の話は、荒唐無稽と言うかその上を行く有り得ない秘密だった。
裏の森から続く石の橋。子供の頃から行ってはいけないと言われていた。
昼でも薄暗い石の橋のそばには怖くて近寄らなかった。橋を守る大きな石のラクダの顔も怖かった。拝殿の裏手は夏でも肌寒いくらいで、何か気の流れがそこだけ違うものに感じられた。
神社とは元来そんな所なのだ、と思っていた。
「鍾馗、よく聞いてくれ。この秘密を受け継ぐのはおまえだから。
それは随神の道(かんながらのみち)神と共にある、ということだ。」
鐘馗はついに子供の頃から「裏の石の橋」と呼んで恐れ近寄らなかった場所の秘密を知る事になる。父、伊邪那の話は信じがたいものだった。
「裏の石の橋は、あの世に通じておる。」
それは、ただ、そこにある。石のラクダにも意味があるらしい。
それは不思議な場所なのだ。魂、と言おうか、霊、と言おうか、言葉は何でもいいので便宜上、思念、と呼ぼう。
その思念の通り道があの石の橋だという。他にも色々な場所に入り口はあり、また、消えては現れることもある。
森羅万象、一切衆生は、生まれ、やがて死を迎える。これはこの世に生まれ落ちた瞬間から、生き物が背負う「業」かもしれない。
生き物の「身体」は「死」を迎えるが「心」は何処へ行くのだろう?
「心」というか、「霊魂」というか、その「思念」はどうなるのだ。それは誰にもわからない。いまだに解き明かされてはいない。人間が想像しているだけだ。
この神社は、その通り道を護持するために作られた。神社を作らせたのは、当時この辺りの権力者だった里見一族と犬塚家の先祖だろう。
通り道は太古の昔から存在していたはずだ。
何故か?何のためにか?
その通り道を通って思念は何処へ行くのか、何になるのか、どうなってしまうのか。
神社はただその場所を護るだけ。この世はいまだ、わからない事ばかりだ。
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