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第17話 タイジ
タイジがこの町に住むことになったのは、中2の時だった。両親が離婚して母親の育った家に引っ越して来た。
ここは田舎のようで田舎じゃない。変な所だった。田舎ののどかさもない。
海にはカッコいいサーファーがたくさんいる。週末になると、東京ナンバーの車が海岸沿いの道路を占領している。波は小さく見えるが、それなりにライディングは難しいのかもしれない。地元にもサーファーはいるだろうが、中2で越してきてひきこもりじゃ仲間になれない。
もう東京にも帰る所はない。
学校では地元を愛するヤンキーたちが、仲間同士固まって、よそ者を排除する。
「何が地元だ。井の中の蛙ども。」
転校初日に洗礼だ。タイジは今時流行らないヤンキーたちに呼び出されて全員に順番に殴られた。
4、5人でつるんでいた。一人を多勢でやるなんてダサい。ここでは、普通なんだろう。
(くそっ、俺は絶対に許さねぇ。
いつかきっと仕返ししてやる。
先生にも、ヤンキーにも。)
悔しかったし怖かった。仲間がいないのはこんな感じか。しばらく学校に通ったが、とうとう,金を要求されて不登校になった。
「これはダメだ。ウチは母子家庭なんだよ。
ばあちゃんはいるけど戦力外だ。」
学校に行くのをやめた。勝手に卒業する事にした。
音楽だけが心の支えだった。初めはレゲエをよく聴いた。苦しみや嘆きを緩くかわす。理不尽な社会に音楽で抵抗する。タイジは何だかグッと来た。マーリーさんは偉い。
命懸けで緩い音楽。抵抗の中にも優しさが感じられる。愛だね。ワンラブ。
それからもヤンキーたちは何かにつけてタイジを構おうとした。
「おまえさぁ、教師にチクッただろう。」
「舐めてんな。誠意を見せろや。」
恐喝は立派な犯罪だけど証拠がない。教師や警察に言っても一時しのぎでどうせ解決しない。
目を付けられてこじれるだけだ。親もこの町の有力者ではないし。
(ああ、誰とも関わりたくない。人間やめたい。)
そんな時、ラップに出会った。ネットのラップバトルを見たんだ。日本語のラップバトル。
言葉でなら、殴り合いもいいだろう。非暴力主義だけど、尻尾を巻いて逃げるのは嫌だ。
ラップはブロンクスの黒人たちが殴り合う代わりに選んだバトル。
タイジがひときわ惹かれたのはDJのプレイだった。すごくワクワクした。
「やってみたい!」
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