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第19話 ばあちゃんの青春

「じいちゃんにはディスコでナンパされたのか?」 「残念ながら違うんだよ。じいちゃんは全共闘だかで学生運動一筋だったね。  地元だから、成田闘争とか、三里塚とか。 アタシはノンポリってバカにされたよ。  70年安保の後くらいだ。世の中は、まだ燻っていて渋谷暴動とかあったね。」  (さっぱりわからないが、じじ、ばば、にも青春ってやつがあったんだなぁ。)  DJになりたいって言うとばあちゃんは 「ディスクジョッキーなら知ってるよ。 ラジオで深夜放送が流行ってて、切れ目なく音楽をかけなから、リクエストハガキを読む人だよね。  アメリカならウルフマン・ジャック。 それかディスコのDJブースで、やっぱり切れ目なく音楽をかけて盛り上がる人、かな?」 「うーん、ディスコの方が今のDJに近いかな。機材も進化してるから今はターンテーブリストって言うんだ。カッコだけのナンパな奴も多いけど、俺がやりたいのはこっち。」  ばあちゃんは年寄りのくせに理解が早い。昔、遊んでたのも伊達じゃない。  昔を思い出してうっとりと呟いた。 「その頃の彼氏はリーゼントをビッと決めて、コンポラのスーツに404のコンビのシューズ。  404って言うのは原宿にあった靴屋さん。つま先の尖ったカッコいい靴を売ってた。カッコいい男はみんなそこで買うんだ。その頃の原宿の電話番号は404から始まってたから、それが名前の由来かな。おしゃれな都会の匂いがしたね。」  ばあちゃんの思い出話が止まらない。 「彼はダンスが超絶上手かった。数種類あるハマチャチヤなんか全部踊れたんだよ。  渋い車にも乗ってた。その頃流行ってたセリカだけど、こだわりがあって流行りのLB(リフトバック)じやなくてGTVにのってたよ。  セリカGTV。 シャコタン、オーバーフェンダーに太いタイヤ履かせて、フロントスポイラーにリアウイングのオバケ車だ。低音のDOHCエンジンの音に痺れたねぇ。」  車の事はよくわからない。それに比べてじいちゃんは髪と髭を伸ばして、というか、伸びちゃって、もっさりって感じでカッコ悪かったのに、そのリーゼント彼氏を振って、じいちゃんと結婚したんだって。  それでこんな九十九里まで嫁いで来たわけだ。 人の縁って不思議だなぁ。 「ばあちゃん、DJになるために練習したいんだけど、機材がないんだ。助けて欲しい。」  ダメ元で聞いてみた。ばあちゃんは年金暮らしで金がない、と言っている。  この時はいつも持っているへんな巾着袋から なんと帯封付きの百万円の束をポンと出してくれた。 (い、いつも持ってるのか、百万円! 不用心だな。) 「タイジのための学費だったけど、おまえの人生の目標のために使え。」 「ばあちゃん、ありがとう。 俺、絶対DJになるよ。」

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