20 / 86
第20話 ジョー先輩
みんなオショーの所に集まるようになった。社務所の横に自由に入れるようにしてくれたのだ。
タイジも時々顔を出す。
その日はジョー先輩が神社に来ていた。ジョー先輩はいつも黒ずくめのスタイルだ。
犬を連れている。チョコラブ。タイジが声をかける。
「ジョー先輩、黒がお好きなんですね。
犬まで黒い。」
「この犬は荘助(そうすけ)黒く見えるけどチョコレート色なんだよ。」
ジョー先輩の話は衝撃的だった。
「中学の時、家で暴れて親に入院させられたんだ。数ヶ月入院して、向精神薬っていうのか、毎日薬漬けで、おとなしくなったんで退院した。
もう暴れない。従順になっていたからね。」
退院しても何も出来ず、というか、何もやる気が起きず、眠ってばかりいた。うつらうつらしたぼやけた世界で漂っている感じだった。
処方された大量の薬を飲んでいればおとなしい。暴れるよりマシ、と家に引きこもらせてくれた。
子供の頃、何かどうにもならない事に焦れて、自分をコントロール出来ない時があった。
「やめて、譲治。落ち着いてちょうだい!」
母親が泣きながら縋り付いて来る。
「母さんが悪かったわ。謝るから叩かないで。
怖いわ。」
「兄ちゃんやめてよ!」
と泣き叫ぶ弟を蹴り飛ばした。
母親を殴り、弟を蹴り飛ばし、壁に穴を開ける。自転車を家の窓に投げつけて壊した。
「自分でもよくわからないんだ。
カッとなると自分でも止められない。
悪いな、という気持ちと、またやっちまったという嫌な気持ち。
俺を怒らせるんじゃねぇ!」
近所の人に隠せなくなって父親は譲治を入院させた。そのせいで弟は親戚に預けられた。
「殺される。」と思ったという。
「譲治はこのままでは犯罪者になる。
病気なんだ。
放っておいてもろくな人生を送れないだろう。」
父親は母に言ったそうだ。母は
「譲治は悪い子じゃないのよ。
すぐカッとなる性格を直せばいいの。
また、家族みんなで暮らせるよね。」
ともだちにシェアしよう!