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第21話 犬
入退院を繰り返した。そんな状態が続いたある日、母親が近所から仔犬をもらって来た。
「ほら、近所に大きな犬を飼ってる家があるでしょ。何匹か生まれたからって一匹もらって来ちゃった。おまえは黒が好きだと思って黒い仔をもらったよ。」
母親が言うのをボーッと聞いていたら、仔犬が近寄って来て手を舐めた。
犬はまとわりついて離れない。生きている事を主張するように小さい体を押し付けて来るのが思いのほか暖かくて心地良かった。命の温もりみたいなものを感じた。
「一緒に生まれた仔犬が他にもまだいたよ。」
「へぇ、兄弟がいるんだな。」
譲治はしばらく会っていない弟の事を思った。
「この犬は荘助(そうすけ)っていう名前にするよ。今、自分で言った。」
母親は、また妄想が始まった、と思ったがその名前を認めた。
兄弟犬は、後にタイジと共に会う事になる大角(だいかく)だ。雑種らしいけど、それぞれにデカい犬だ。レトリバァの血が入っているようだ。
家でひきこもっていたが犬の散歩には出かけた。そしてタイジと大角に出会う。
タイジの顔だけは以前から知っていたが、近くでこうして会うと焦った。
(こいつ絶対にヤバい奴じゃね?)
長袖のTシャツの手首からタトゥーが見えている。腕全体に入っているようだ。
頭の後ろ、首筋からもタトゥーが覗いている。
全身か?
それでも黒いマスクと全身黒しか身につけないジョーの格好も充分ヤバそうに見えたって、後から言われた。
後にジョー先輩も手首から肩までタトゥーを入れる事になる。入れてみれば怖い人でもなんでもない事がわかる。
「俺は犬川譲治、ジョーって呼んでくれ。」
「ああ、俺はタイジ。犬村退治。
じゃ、ジョーさんまたお会いしましょう。」
ジョーは他人と話をするのがこんなに新鮮なんだと、初めて感じた。楽しかった。
大した話をした訳じゃないのに、また話したいと思った。タイジとまだまだ話す事がたくさんある気がした。
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