24 / 83

第24話 ラップバトル

 神社で久しぶりのラップバトルが開催された。 季節はもう晩秋。少し肌寒い。 「ヤ、オレがサトウだ。サトウでも甘くはないぜ。シュガー、ジャガー、オレは吠える虎タイガー。オレの言霊、対価は何だ? 燃やし尽くしたターンハーオン。  オレのハートは耐火仕様。 誰か火を付けてみろよ。」  初めにいきなりサトウが飛び出した。 タイジの回す皿の重低音が腹に響く。 「ヤ、エンジンは全開、フルスロットル。 振り立てる言葉は、振り捨てられるブリザード。  プリズムのように振り分ける色の洪水。 カラフル。オレたちはいつもトラブル。  言葉はブリキのおもちゃ、フリゲート艦か? これがオレのブルース。」  サトウが声を出すのはラップにノレたって事。 だから初めて聞いた時は驚いた。いつもしゃべらないのに、信じられなかった。  その日は初めて来た奴らがいた。 ラップでよく使われる 「悪そうな奴は大抵友達」 っていうリリック。 だけど、見かけない輩(やから)だった。  サトウの相手はこの見慣れない奴だった。 季節外れのアロハシャツの半袖から和彫りの刺青が覗いている。 「ブルース上等、聞かせてくれよ、甘ったるい生き様。  ふざけんなよ、ハンパな野郎はぶっ殺す。 甘ちゃん、海女ちゃん、ハマグリでも取ってきな。海も似合わねぇダサい奴ら。  わかってんのか、ラップだって、笑わせる。 俺は地獄を見て来た男。仲良しこよしはとっとと帰りな。」  和彫り野郎が、後に本当に地獄を見る事になるとは知る由もない。 「全否定だな。オレは引きこもり15年。 普通なら積み上げる社会経験が、オレには無ぇ。  ラップに出て来るリリックは突然。 オレのディスは必然。 神降臨。おまえはタダの口論。  地獄を見て来た男に、小躍りするオレの中の悪魔。おまえはタダの小悪魔、いや小悪党。  上等じゃねぇか。呟いてるだけの言葉は無駄無駄無駄無駄。  オレの言葉はゴールド。そしてアンタはコールド負け。」  サトウがいつになく過激だ。 和彫り野郎が続く。 「カマ野郎を潰しに俺はここへ帰って来たぜ。 こんな町には何にも無いが、ウザイ野郎は生かしちゃおけねぇ。 イカした俺たちがぶっ殺す。皆殺し。」  なんだか独特なリリックはラップから離れて行くみたいだ。ただのディスり合い。  タイジが何かに気づいたようにこっちを見た。

ともだちにシェアしよう!