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第26話 琥珀

 そこに琥珀がやって来た。サイコも一緒だ。 「あ、女子がいるじゃん。可愛い娘たち。」  和彫り野郎のチャラい仲間が、女の子に目の色を変えた。 「おい、俺がディスられてんだぞ。 女なんかどうでもいいだろ。」 和彫り野郎が怒鳴る。  熱くなっているその場の雰囲気に琥珀は不思議そうな顔をしている。 「なんか今日は殺気立ってるねぇ。」  琥珀の疑問に鉄平が慌てて答える。 「そうそう、今日はいつに無いディスり合いになってて、空気悪いんだよ。」 8小節2ターンを無視してラップは終わってしまった。タイジの打ち込みだけが続く。  和彫り野郎は琥珀から目を離さない。ナースのコスプレが珍しいわけでもないだろうに固まっている。琥珀を女の子だと思っているようだ。 顔を赤らめて捨て台詞を吐く。 「つまんねえな、まだまだ続きがあるんだよ。 次が楽しみだぜ。」 和彫り野郎は悪仲間と帰って行った。 「夜道には気を付けろよ。ははは、ばーか。」 中身がない。幼稚だ。 「サトウ!カッコよかったよ。」 「まじスゲエー。」  口々に声がかかってサトウは笑っている。DJもひとまず終わってタイジがみんなのところへ来た。 「タイジ、お疲れ!」  見に来ていた地元の中学生たちが、タイジにも拍手している。みんな未来のラッパーだ。  タイジが言った。 「サトウ、大丈夫か? 雰囲気悪かったな。俺、あの和彫り野郎、知ってるよ。同じ中学だったけど、もう25才は過ぎてるはずだ。しばらくこの辺にいなかったのに帰って来てるんだな。  俺、転校して来たばかりの頃、あいつらに殴られてカツアゲされて不登校になったんだ。  この辺は田舎だから外を歩いていても、奴らと出会いそうで、ひきこもりになったよ。  外に出るのに10年くらいかかった。」  タイジの言葉にみんなそれぞれ思い当たるものがある。  そしてみんながもう一つ気になっている。カッコいいサイコの事。この辺にはいないタイプ。 「サイコのラップも聞いてみたかったな。」 「琥珀も可愛いね。黒衣のナース?」 「琥珀は自分で衣装作るんでしょ。 あたしにも教えて欲しいな。」 「一緒に作ろう。楽しみ。」  サイコも犬を連れていた。琥珀のトイプードル、ケノと仲良くなっている。犬同士気が合ったみたいだ。

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