29 / 83
第29話 石田
石田は、寒いのに今日も半袖だ。
「お、おうよ。」
「犬村もなんか墨入れてたなぁ。
流行りのタトゥーだっけ。」
省吾が思い出したように言う。
「あんなの墨じゃねぇよ。ファッションだろ。
これと一緒にすんな。」
石田が自慢出来るのは肩に彫った刺青だけだ。
片方に金太郎、もう片方に錦鯉だ。肩から腕にかけて、それは見事なものだった。
「昔から、親父が面倒見てた漁師の若い者が、本物ヤクザにゲソ入れて、今じゃ、この町のM会の傘下の組の若頭だ。若頭って偉いんだろ。
おまえも根性見せろって言うから、両肩に入れてみた。」
本当に入れるなんて、バカじゃねえか、と省吾とキヨシは思う。
「和彫りは超痛いんだぜ。特に赤がスゲー痛え。
親父にはぶん殴られたけどな。」
調子に乗って石田は話すのを止めない。
「その人は松田さんって言うんだ。おまえらもこの前、顔見たろ。
なんかあったら名前出していいって。この辺りで松田さん知ってたら怖いもんないぜ。」
(石田の自慢がまた始まった。
俺もこんなのとつるんでんのが恥ずかしいぜ。)
省吾はうんざりしていた。
(ヤクザ者の名前なんか出したら、後々何させられるかわかんねぇし。
石田は頭が軽いからなぁ。脳みそあんのか?)
「あーあ、パチンコやりてぇ。
おまえら、いくら持ってる?」
石田に聞かれて省吾とキヨシは顔を見合わせた。
「明日、新装開店の店あっから、朝から並ぼうぜ。金は松田さんから少し借りてもいいな。
最近松田さん、マチキン始めたんだって。
組のシノギらしいけど、アルバイトすれば貸してやるって。」
(どんなアルバイトだか想像はつく。ブラックなやつだろ。碌なもんじゃねぇ。)
「この前のバトルに来ていたコスプレの娘、可愛かったな。黒い看護婦さん。拐っちゃおうかな。」
「石田、怖いこと言うなよ。あいつ、男だよ。」
「えっ?」
石田は琥珀の事が忘れられなかった。
「もう一人、気の強そうな女がいただろ。」
「俺、ああいうのが好きだな。」
「また神社、行こうぜ。パチンコで稼いでよ。」
石田は脳天気だ。
ともだちにシェアしよう!