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第34話 借金

 和彫り野郎石田は、もう身動き取れない状態だった。 「おまえ、悪党面だし、頭悪いし、本当に使えないね。」  松田さんの舎弟だという、もろヤクザ面な男が言った。この男に事務所に連れてこられたのだ。  石田も、眉を剃って頭にも剃り込みを入れて、童顔を隠すべく、頑張って強面を作ってツッパッていた。可愛いと言う奴はすぐに殴った。 「どうすっかな。臓器でも売るか?」 石田は真っ青になった。 (この業界の人は血も涙もないんだよ。 前に聞いた事がある。使えない奴は、必要な臓器を取った後、漁船に積み込んで沖に捨てに行くって。嘘だろ!)  石田は色々やらされたが何一つ上手くいかなかった。電話で詐欺、の片棒を担ぐ仕事に石田のできる事はなかった。電話をかけても息子のふりが下手すぎてすぐにバレた。ATMの出し子もオドオドしすぎて行員に目をつけられた。  直接、息子の同僚のふりをして現金を受け取りに行けば、その顔ではサラリーマンに見えず、相手の年寄りに警官を呼ばれそうになった。 「アポ電強盗ってのは出来っかな? 強盗(たたき)なら頭いらねぇだろ。」 というので名簿に載っている金持ちで一人暮らしの年寄りの家に電話をかけて、所在を確かめ押し込み強盗を働く。  実際にやって見ると、ビビって仲間の足を引っ張るだけだった。家にいた年寄りに騒がれて殺しそうになって、何も盗らずに逃げた。 「使えねぇな。」 「兄貴、すみません。 こんなに使い物にならねぇと思いませんでした。」  石田に向かって、吐き捨てるように言った。 「キヨシの方がまだ使えるな。 あいつは意外と口が達者で電話が上手い。 東京で接客やってたって。番頭候補だ。  省吾も運転上手いから,足に使える。 使えねぇのは石田の坊ちゃんだけだ。」  一緒に金を借りた省吾とキヨシも身柄を拘束されていた。 「可愛い顔してっから、東南アジアの方に売るか?」 「ダメだよ。墨入ってると安く買い叩かれる。 手足へし折ってダルマにすれば、金持ちの中国人の物好きが買うかもな。」  日本人は清潔感が売り物で、刺青が入っていると淫売だと思われるらしい。  清純派が高値で取引されるのは、世界共通だ。 「松田さん、勘弁してくれよ。 もう一回親父に泣きついてみっから。」 石田は本当に怯えている。

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