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第35話 借金 2
家に帰ると石田の父親は一人テレビを見ていた。その貧乏臭い背中に声をかける。
「父ちゃん、頼みがあるんだけど。」
「おまえの頼みはどうせ金だろ。
ワシは国民年金だ。月6万くらいで何が出来る。
もう観光地引き網もやってないし、な。」
「父ちゃん、俺、松田さんに殺されるよ。
もう借金が膨れ上がって千万単位になってんだよ。」
「松田の野郎、恩を仇で返しやがって。
ワシが若けりゃなあ。」
「兄貴に聞いてくれよ。郵便局で借りられないか。」
ウチで唯一マトモな社会人の兄貴だった。
「まあ、無理だな。評判悪いおまえのせいで、嫁も来ないんだぞ兄ちゃんは。」
「親父が勝手に、昔、散々金使って選挙に出るとか言って、結局落選して破産したんだろ。
漁船も何隻もあったのにみんな人手に渡って。」
石田は、いつも何も考えずに人のおだてに乗りやすい父親を馬鹿にしていたが、これほどよく似た親子もいない。
「家と土地でいくらかになんねぇかな。
結構広いだろ、ウチの土地。」
「1000平米に少し足らん土地だ。平米1万として1千万に足らん。上物はボロで二束三文だな。
それにここを売り飛ばしたら、ワシらどこに住むんだよ。」
石田は思ったより安い金額に愕然とした。
「足りない!もうダメだ。俺の人生。
父ちゃん、助けてくれ。」
「馬鹿野郎!」
そうは言いながらも何かないかと考えていた父親は、昔、メイから聞いたある事を思い出していた。
「おまえ、ラップとかって、よく犬塚神社に行くんだろ。なんて言ったっけ、あの外人みたいな先生。」
「メイ先生か?」
「そうそう、そのメイ先生は神社の親戚筋らしいんで、昔、聞いた事があるんだが。」
石田の父の話はこうだ。
神社の、ある所に宝物があるそうだ。
母親の先祖がメイ先生のために遺したもので時価数億の価値があるらしい。
昔、石田の父が県会議員に立候補することになったのも、その時、選挙を応援していたメイ先生の強引な薦めがあったからで、その選挙資金も、宝物をT県の博物館に買い取って貰えばいい、と言っていた。そんな事を石田の父親は思い出したと言う。
「そんなうまい話があるかよ。
じゃあなんで破産したんだよ。」
石田は顔が綻ぶのを抑えて言った。本当は藁にも縋りたい。
「それ本当に親父に権利があるのかよ。」
「あるよ、選挙の時、金は心配いらないって言ってたんだ。ワシが全財産投げ打つなんて話じゃなかったよ。」
「とりあえず、メイ先生に会ってみよう。」
「綺麗な巫女さんがいて、有名だった。
それがメイの母親だ。聞いてみろ。」
石田ももう、何もしないで逃げ回っているのは嫌だ。
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