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第36話 犬塚神社
石田は神社の境内に忍び込んだ。勝手に奥まで入って行った。
仲間を作ると分前が減る。怖いが一人で来た。
「なんだか薄気味悪いな。
まだ日は暮れてないのに、寒々しいし暗い。
嫌な感じだなぁ。どこに宝物があるんだよ。」
石田はひとり、呟きながら神社の裏手に回った。裏手はもっと暗い。さっきから迷いながら同じところをグルグル回っている。
誰もいないと思っていたのに人の気配がする。
ぼぅっと白っぽい人影が見えた。巫女のようだ。
「何か、御用ですか?誰かお探しですか?
ここは立ち入ってはいけない場所ですよ。」
揺らぐように立っている幽霊のような巫女に、声をかけられ、適当な話をでっち上げる。
「この神社には何か宝物があると中学の時、先生が言っていたのを思い出して、ここに来たついでに見せてもらおうと思いました。
博物館みたいに見学できるのか,と歩いていたら迷ってしまいました。」
なんとか取り繕う。
「ああ、ありますよ、この奥です。
ご覧になりますか?
ただ、これを見るには覚悟がいります。
よろしいですか?」
「ひぇー、覚悟って何ですか?」
(覚悟は出来てるよ。
大金を手に入れるわけだからな。)
石田は足の震えを止められない。
「こちらです。」
と言われ、後をついて行くと小さな石の橋が見えた。
(あれ?さっきここを通った時は、こんな橋は見当たらなかった。見逃したのか。)
巫女は橋の手前でこちらに手招きしている。
石田は躊躇した。なぜか、ここを通ったらもう二度と生きては帰れない、と本能が言っている。
橋の手前に大きな石のラクダの頭が置かれている。周囲の景色に溶け込んで気付かなかったが、それはかなり巨大な石だった。おそらく数トンあるだろう。立派なラクダの顔だ。
頭全体が一枚岩で出来ているが、精巧なラクダの顔だった。苔むしている。
巫女は言った。
「これがこの神社の宝物です。
国宝級のものですが誰も動かせません。
神代(かみよ)の時代からここにあるのです。」
「これって、値段がつくものなのか?」
石田の問いに巫女は笑って
「値段をつけるとしたら数十億、もっとか、わかりません。」
「でも動かせないよね。」
「ある方法で簡単に動かせるのですよ。
その道具は橋の向こうにあります。」
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