38 / 83
第38話 犬塚神社 3
(俺は寂しがり屋だったんだ。だから周りに誰かを集めていつも騒いでいた。)
今、気付いた。ここは本当に寂しい所だ。
「誰か、助けてくれーっ。」
思わず大声が出た。
いまさら反省しても仕方ないが、石田はさまざまな事を思い出していた。あまり良い事をした記憶がない。寂しがり屋のくせに仲間を集めて弱そうな奴をいじめる。弱いものイジメばかりしていた。相手の寂しさなんか思いやる心は全く無かった。他人の痛みなんか、気にも留めなかった。
ずいぶん時が過ぎたように感じたが、時間の経過はわからない。いつまでここに一人ぼっちでいなければならないのか。
気が狂いそうだ。いや、もう狂っているのか?
夢を見ているのか?眠っているのか?
だったら早く起きなければ。
「もしかして俺は死んだのか?死んだらこんな所に来るのか?
お花畑の向こうで死んだばあちゃんが呼ぶんじゃ無かったのか?
なんかテレビでやってたぞ。死後の世界はもっと色があるはずだ。
こんな灰色で寂しい所なんて聞いてないぞ。」
日本神話にはいろいろな決まりがあったはずだが、それはただのお話。
決して振り向いてはいけない、とか、その世界の物を食べてはいけない、とか。
死体はすぐに腐り始めるからもう帰れない、とか。
そんな事はない。ただ普通は死んだら帰れないものだ。誰の指し図でもない。ただこうなっている、って事だ。
迷いの多い人間は、黄泉の入り口でさえ迷ってしまう。煩悩というか。
黄泉平坂(よもつひらさか)で死ぬまで、いや、死んでも迷い続ける。
石田は迷い続けるタイプだ。普段威張っているのに、こんな時はジタバタする。
(もうどれだけ時間が過ぎたのか。3日くらいか。腹が減って力が出ない。死んでいても腹は減るのか。
何か聞いた事がある。いつも腹を空かして食べられる物を探して這いずり回る地獄ってのがあるんだよ。母ちゃんの葬式で坊主が言ってたな。
餓鬼道とか言うんだ。俺が今いるここがそうなのか?)
石田が疲れ果ててうずくまると、霧の間に霞んで遠くに地蔵がうっすらと見えた気がした。
石田は思わず走り出した。今まで何もない、と思っていた所にわずかながら変化が見えたのだ。
走って走って、地蔵は思いのほか遠かった。必死で何とか、たどり着いた。
ともだちにシェアしよう!