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第43話 阿南先生
「おまえには役に立つ簡単な受け身を教えるよ。
まず、喧嘩は勝とうと思うな。
今時の奴らは数でくる卑怯者だから、致命的なケガをしない事が一番大事だ。」
阿南先生は、初心者でも身を守れる受け身のコツ,みたいなものを教えてくれた。
「それから、怪我をしないためには、身体の柔軟性が大事だ。
いつもストレッチを心掛けて生活しろ。
そしてとにかく頭を守る。
サルだって子供の時は本能的にすぐ頭を抱えて丸くなる。
頭さえ守っていれば少しくらい殴られても助かるだろう。」
実践的なことばかりで、どんな授業より役に立った。
「ありがとうございます。」
「イジメがはびこったり、不良が堂々と生徒に手を出すような学校で申し訳ないな。
俺も頑張るから許してくれ。」
一生徒に頭を下げる、こんな教師は阿南先生が初めてだった。
先生が教えてくれたのは、世の中は敵ばかりではない、という事だった。
中二病で何も信じられなかったタイジも、この時は、ほんの少し、大人にも、悪くない奴がいる、と思えたのだ。
そんな阿南先生は、五月雨の良き理解者だ。
タイジが中学の頃、殴られたのを知って、ヤンキーたちを呼び出し厳重注意した。五月雨は見ぬふりをした。
そんな五月雨を阿南先生は見捨てない。
五月雨が、面白がって、関係ない事に首を突っ込んでかき回すのを知ってるのは阿南先生だけだった。
「なんか予定調和ってのが嫌いなんだよね。
阿南先生、僕はゲイなんだ。一回どう?」
「なんて事を!」
五月雨の性癖を知っているのは阿南先生だけだった。阿南先生は五月雨から目が離せない。間違いを起こさぬように、いつもひやひやしている。
阿南先生は
戦々恐々の日々だった。
(生徒に手を出さないように、見張っていなければ。私はメイ先生が心配だ。道を踏み外さないように。)
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