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第47話 メイ先生
「また来たよ,先生。」
メイ先生はいつものように抱きしめてキスしてくれた。
「琥珀、元気ないね。どうした?」
「うん、ここに来るのが、後ろめたい。
先生と二人きりで悪い事、してるみたいだ。
もっと明るい方へ行きたい。先生が怖い。」
メイ先生は、リビングの中へどんどん入って行く。広いリビングの大きなソファに座って琥珀を見た。
「僕の事が怖いって?」
「うん、二人きりなのが嫌だ。
もっと客観的になりたい。うまく言えない。」
「よし、わかった。少し距離を置こう。」
こうしてしばらく会わない事になった。
寂しい。恋しい。けれど少しホッとしている。
琥珀は誰かと二人きり、というのが気持ち悪かった。好きな人とキスしているだけでは、不安になる。セックスも同じだ。
二人だけの秘密、というのがおぞましい。
もつと、違う世界にも目を向けて欲しい。
「先生は趣味とかないの?
いつも俺に合わせてくれるのが、重くて嫌なんだ。他にも、友達がいないの?」
「あ、キミは何か勘違いしてるね。
全ての予定を琥珀に合わせていたのが
イヤだったのか。
これからは僕も自分のために時間を使うよ。」
しばらく会わない日が続いた。琥珀は何も手に付かない。無為な日が続いた。
思い切って久しぶりに先生の家に行ってみた。
休みの土曜日。奥からドラムの音がしている。
そう言えば、先生の家のリビングの奥に、ドラムセットが置いてあった。演奏しているのを見た事はない。
琥珀はメイ先生の事を何も知ろうとしなかった自分に気づいた。
(どんな音楽が好きなんだろう。)
部屋にはいつも低い音で音楽が流れている。
大抵クラシックの静かな曲。バッハの平均律が多かった気がする。アップライトピアノも置いてあった。
趣味のいい空間だった。当たり前のように上がり込んで過ごしたが、先生の家の家具はみんな居心地が良かった。こだわりがあるのだろう。
二人で買い物をしたり、二人でもっといろんな話をすれば良かった。
気持ち悪いのは俺だ。家に来るとすぐにセックスを強請って。
どんな学生時代を送ったのか、とか、話題はたくさんあったはずだ。
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