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第48話 粟生
「この前のラップバトルで、女の子がいたの、覚えてる?」
サイコが聞いた。
ラップバトルが終わり、みんなが片付け始めた時、見慣れない女の子がオズオズと話しかけて来た。
「あの、あたし、海を見に来て少し歩いてたら、なんか音楽が鳴ってるんで来てみたんだけど。
東京から来ました。
なんかみんな幸せそうだね。」
初めて見る女の子だった。皮肉を言ってるのか、と思ったがなぜか、疲れ切ってるようだ。
「あんた、見たことないけど地元の子じゃなさそうだね。なんか困ってるの?」
面倒見のいいサイコが聞いた。
「昨日まで住んでたアパート追い出されて住むとこ無いから、スマホの出会い系でパパ活。
一晩泊めてくれたけど、追い出されちゃった。
千円ちょっとしかお金がないから死んじゃおう、と思って、海を見てから死のう、とここに来た。
千円で来れる海。」
「年はいくつなの?」
サイコは驚きを隠せない。
畳み掛けるように質問する。
「あたし、16才。去年中学を卒業した。
さいたまに住んでたんだけど、卒業と同時に家出して、一年近く東京にいたの。」
「今まで何してたの?」
「なんかネットの出会い系で知り合った人のアパートにいたんだけど。」
彼女は、なんとなく気が合ったよく知らない男と暮らしていたらしい。近所のスナックで年をごまかして働いたり、それなりに楽しかったという。
「でも、ひと月くらい前から彼が帰って来なくなったの。それで家賃が払えなくなった。
契約違反だって管理会社の人が来て、部屋を追い出された。」
ワンルームの部屋には、元々、たいした荷物もなかったから、男が出て行っても探す方法も考えつかなかった、という。
(人間関係が余りにも希薄だ。)
とりあえず神社のオショーの所に連れて行く事にした。玉梓もいるからゆっくり対策を考えよう、という事になった。
「名前,なんていうの?」
「粟生(あお)」
女の子はそう答えた。
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