52 / 86
第52話 ジョー先輩と三郎
「何の本を読んでるの?」
ここは病院の談話室。食事が終わると、ここで過ごす。開放病棟だ。
ジョーはこの頃、薬の効果か、自分を律するということが少しわかってきた。
もう退院の許可は出ている。この頃は、いつも話をする三郎という青年がいる。
「ガルシア・マルケスの、百年の孤独。
ジョーは読んだ事ある?」
「無いよ。すごい分厚い本だな。難しそうだ。」
「難しく無いよ。面白い。長い物語だ。
まだ、最後までは読めてない。」
いつも静かに本を読んでいる三郎にジョーは興味を持った。
散歩の時間。病院の敷地を散歩する。
いつも見かける三郎に思い切って声をかけた。
薬の影響か、夢の中にいるようで、フワフワと声をかけたのだ。今までならそんな勇気は無かった。他人に興味も無かった。
今はこの三郎と友達になりたかった。心境の変化だ。可愛い顔にも好感を持った。弟に似てる。
「いつも、違う本を読んでるね。」
「うん、僕は速読を練習してるんだ。
早く読まないと置いて行かれちゃうから。」
「誰に置いて行かれるの?」
「えっ、わかんないの?
地球の自転に、だよ。すごい速度で自転してるから、ゆっくりしてたら真理を逃す。」
「なんだか、わかったような、わかんないような理屈だ。」
「自分の持ち時間は限られてるからね。」
三郎の話は興味深い。なるほど、と思わせる。
ジョーの退院が決まった。父親が手続きした。
「三郎、俺、退院するんだ。親父の許可が出た。
医者の許可も。
サブも出られたら、ウチに遊びにおいで。」
二人の秘密。キスをした。超高速のキス。
ジョーは心臓を射抜かれた。
そしてジョーは社会復帰する。ラップに救われた。犬の散歩で出会ったDJタイジがヒップホップの沼に引きづり込んでくれた。
時を同じくして、三郎も退院したと連絡が来た。ジョーは家に招待した。
「ジョー、変わったね。オシャレになった。
それにタトゥー。お母さんは大丈夫?」
トライバルのタトゥーを見て驚いている。
「サブは音楽とか、何を聞いてる?」
「うーん、日本のグループとか。
アニメの曲が多いな。」
「ヒップホップいいよ。サブはラップ出来そう。
本をたくさん読んでるなら
リリックが溢れてくるんじゃない?」
ともだちにシェアしよう!