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第55話 メイと琥珀
優しい。触れ方が優しい。抱き寄せて耳元で囁く。
「ごめんよ。痛い事はしない。
無理はしなかったけど、怖かったかい?」
(人間はなんでこんな事をしたがるんだろう。
無理だ。)
まともに顔を見れない。怖くて抱きついてしまう。
「もう、先生と会わない。」
帰り支度をして困った。ドレスを着て帰れない。
「先生、着る物が無いよ。」
先生はクローゼットをかき回して、白浜中のジャージを上下持って来た。
背の高い先生のものは手足が余っていくつか折り曲げた。
「懐かしいな、中学の時の琥珀だ。」
琥珀は怒っていた気持ちがしぼんで笑ってしまった。
「僕の膝においで。」
ソファに座るメイ先生の膝に、すっぽりと抱き込まれた。髪を撫でられて
「ごめんよ。琥珀は嫌だったか?」
「うん、痛かった。あんな事するんだね。
俺は先生と愛し合えない。」
家に帰ろうと立ち上がった琥珀を、メイは強い力で抱いた。
「もう一回、僕にチャンスをくれ。
帰らないで。」
琥珀は男同士のセックスにショックを受けている。甘い夢も消えてしまった。まだ童貞だ。女性も知らない。
先生の端正な顔が救いのようだった。
困った顔をしたメイは限りなく色っぽい。琥珀が子供すぎるのだ。
会えない時にあれほど求めた気持ちがどこかに消えてしまった。
「先生はセックスがしたいだけなの?」
会うといつもそこへ行くのがつらい。
「先生に抱かれたい人はたくさんいるでしょ。
どうして、俺なの?俺は男だよ。」
初めは嬉しかったはずなのにどうしてこうなったのか。
先生は優しく肩を抱いてくれた。
肌のふれあいもイヤではなかった。でもあんな事するとは思わなかった。男同士はあんな事するのか。
「イヤなら、しばらく会えなくても仕方ないね。
僕が急ぎ過ぎたんだ。」
人を愛するとセックスしなければならないのか?みんなあんな事してるのか?
(俺はガキみたいな事,言ってるんだな。
中二病丸出しだ。)
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