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第62話 タイジのじいちゃん

 タイジのばあちゃんの家に訪ねて来た人がいた。犬を連れている。  ワイマラナー。伝説の猟犬。美しい立ち姿。 初めに気付いたのは大角だ。普通に吠えてばあちゃんを呼んだ。 「大角が吠えるなんて珍しいね。」 ばあちゃんは大角が人語を解する事を知らない。賢くおとなしい犬だ、と思っている。 「こんにち、犬村さんのお宅ですか。 あ、咲耶さん、ご無沙汰しております。 拓ちゃんの後輩の崇彦(たかひこ)です。 昔、お世話になりました。  今は車で旅をしていて、九十九里に来たので、ご挨拶に伺いました。」  唐突な訪問にばあちゃんは驚いていた。死んだじいちゃんを拓ちゃんと呼ぶのを、久しぶりに聞いた。 「拓ちゃんが亡くなってずいぶん経ちますが、中々こちらに来る事も出来ず、失礼してしまいました。  訳あって身を隠していた時代もあり、不義理をしました。」  犬遠藤崇彦と名乗るその人は,深々と頭を下げた。 「まあまあ、崇ちゃん、ずいぶん会ってないわね。名前を呼ばれたのも久しぶりだわ。」  ワイマラナーは大角に匂いを嗅がれておとなしくしていた。 「ワンちゃん、お利口ねぇ。ウチの犬は大角というのよ。  崇ちゃんは犬と一緒に車で旅をしてるの?」 「はい、犬連れで失礼します。  犬はディーキーといいます。 なんだか、犬同士、気が合っているようだ。」  二匹はばあちゃんたちに気付かれないように、小声で話した。 「初めまして。僕はディーキーといいます。 八犬士の事は前から知っていました。  僕も仲間のようです。先祖の伝承で言い伝えられています。先祖はドイツの犬ですが。  僕らみたいなしゃべる犬はたくさんいるみたいです。元々犬は人語を解するので。」 「初めて会ったのによくしゃべる犬だな。 確かに犬の仲間はいるよ。  それでディーキーがここに来た目的はなんだ?」 大角は呆れている。 「人探しです。ボクと一緒に育った女の子。 あ、人間の、ね。ボクの飼い主の孫です。」  ばあちゃんは死んだじいちゃんが若い頃、学生運動をやっていた事を思い出した。  じいちゃんの名は拓。ひらく、と読むのだが拓ちゃんで通っていた。  生きていれば83才。ばあちゃんより15才年上だ。犬遠藤と名乗るその人は、学生運動の仲間だった。 「とりあえず、お上がりください。 ウチは拓ちゃんの意向で仏壇がないので、お線香をあげて、とも言えないわね。  拓ちゃんが無宗教だったから。 遺影に会ってやってくださいな。」  ばあちゃんは自分の部屋に案内した。じいちゃんの写真が飾ってある。

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