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第65話 会いたい
琥珀は自分の妄想に疲れ果てていた。
会いたくて会いたくて、でも拒絶したのは自分だ。どうやって会いに行けばいいのか?
(先生は俺と愛し合いたいって言ってた。
簡単な好き、じゃなくて愛してるって言ってた。
俺が断ち切ってしまった。)
好きなコスプレを作っている時も、あまり気が乗らない。好きなアニメの衣装をデザイン画に起こしていても、先生に見せたいと思っている。
(先生はどんなのが好きかな?)
メイ先生は琥珀の女装を馬鹿にしなかった。
もっといろんな話がしたいと思った。
何故か、過去形で考えているのが切ない。自分で無理やり、もう終わったと言い聞かせている。
(ちょっと気にかかる元教え子をかまってくれただけなんだ。)
ケノを連れて散歩に出た。神社に足が向く。
(誰か、来るかな。)
琥珀は寂しかった。
今日は社務所に鉄平とナナオが来ていた。シンベヱと小文吾もいる。
ケノは犬たちのアイドルだ。メスが少ないせいもある。
リードを引っ張って突然ケノが走り出した。
「待てよ、ケノ。」
立ち止まって低く唸り声を上げている。いつも仲良しの犬たちが変だ。
「あ、メイ先生。」
何か神社に用があったのか、五月雨が立っていた。犬の前で固まっている。
シンベヱと小文吾も威嚇して唸っている。
駆けつけた鉄平とナナオが言った。
「先生は犬が嫌いか?
もっとも、犬の方も先生が嫌いみたいだ。」
「ウチの犬たちは滅多に唸ったりしないよ。
メイ先生、よっぽど嫌われてるんだな。」
「先生!大丈夫?」
離れの奥から女の子が走って来た。慣れた様子で犬を撫でて落ち着かせた。
「君たちの犬かい?
僕は犬が苦手なんだ。何とかしてくれ。」
「先生、家に入ろう。」
女の子が五月雨の腕を取って連れて行ってしまった。
「誰だ、あの娘?犬の扱いに慣れてたな。
よーしよし、シンベヱ落ち着け。」
小文吾もシンベヱも鼻面を撫でられて落ち着いた。ケノも琥珀に抱かれて静かになった。
「琥珀、大丈夫か。」
鉄平が心配してくれた。
「何だよ、あの女。馴れ馴れしくメイ先生の手を取って行っちゃったけど、俺たちに挨拶なしかよ。」
ナナオが不愉快そうだ。
琥珀は、メイにやっと会えたのに、連れて行ってしまった女の子に、嫉妬の気持ちが湧いて来た。
(先生は女の子がお似合いだよ。俺は道化か?)
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