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第71話 『咲耶さんのロックバー』

 粟生は初めて五月雨を見た時からもう何も考えられなくなっていた。咲耶さんのロックバーにサイコと来ている。五月雨がいた。 (こんなカッコいい人がいる? こんな気持ちは初めてだ。今まで生活するために男に依存して来たけど、心から好きだなんて思った事ない。誰と寝たって同じだ、と思ってたけど、こんな綺麗な人がいるなんて。男だけど綺麗。)  咲耶さんのロックバーのハコバンを募集するという。五月雨も参加するのか? 「ラップバトルの時に、簡単なオーディションしようと思うんだよ。知り合いがいたら声かけて。」  粟生は関わりを持ちたい。前の悪仲間に声をかけた。  当日、ガラの悪い奴が3人やって来た。 「粟生、久しぶり。どこにいたんだよ。 みんな探してたぞ。」  タトゥーだらけのろくに挨拶もできない男たちが来た。目を合わせないでしゃべる。 「トオル、バンドやってたって言ったよね。」 「ああ、ハコバン探してるんだろ。 俺と翔とハヤシでどうだ?  こんな田舎じゃ大した奴はいねぇだろ。」  咲耶さんに紹介しに行く。不穏な空気だ。 「いらっしゃい。バンドやってるって?」 「そう、俺トオル、ギターだ。 こっちがドラムの翔。その隣がベースのハヤシ。 いつも横浜がホームだな。こんな田舎には来た事ない。九十九里って何もねぇな。」  咲耶さんが眉をひそめた。 「もう、うちはギターとドラムはいるんだよ。 ベースだけでいいんだ。それともセッションして決めるか?」  粟生はつまらなそうだ。五月雨が相手にしてくれない。あまりメンバー決めに興味なさそうだ。 (ギターならウチのおじいちゃんが上手いけど 来てくれるわけないな、プロだし。)  それにしても態度の悪い連中だ。 「音出してみてよ。」 「ええ?今日は楽器持って来てないよ。 来ただけでもギャラ出るんでしょ。 粟生は顎足付きって言ったよ。 腹減ったなぁ。」 顎足付きとは、食事と交通費が支給されるという事だ。乞食根性だ。嫌な感じ。タカリヤっぽい。    そこにタイジと鉄平とナナオたちが来た。 ジョーとサブも一緒だ。

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