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第75話 ベースマン

 ハヤシと呼ばれた男は、咲耶さんのお眼鏡に叶ったらしい。あのチンピラ、トオルたちの中で唯一、本当にベースをやっている若者だった。  ハヤシは自分の売り込み方がわからなくて、新宿をうろついていた。  因縁付けられて持ち金全部取られた所をトオルたちに助けられた。全部トオルのヤラセだった事は後で知った。  担いでいた、ベースだけは無事だった。ハヤシはベースギター一つで家出して来た。  背が高くてイケメンと言われ、ホストクラブで働かされた。  世間知らずが世間知らずの少女たちを騙して風俗に沈める。バックには反社が付いている。トオルも崩れた魅力のあるイケメンだったから、組んで女の子を漁った。翔は今流行りのKポップスターのような顔をしているからナンパは得意だった。  トオルとハヤシと翔で組んでボーイズバーやコンパブで働いたり。  女の子と遊ぶのが仕事だった。 そこで粟生と知り合った。似たような家出娘とチンピラの、簡単にくっ付く男女の仲だ。  粟生は自暴自棄で危なっかしい娘だった。ホストに引っかかって、莫大な売掛金で脅されていたが本物のヤクザ者にかばわれて助かっていた。  粟生には類稀な歌唱力があったのだ。 極成会の岡本と名乗るヤクザが売掛をチャラにしてくれた。その代わりにカラオケに連れて行かれて、岡本が飽きるまで演歌を歌わされた。  歌が上手いのが身を助けた。 「逃げるなよ。お前の借金は無くならねぇよ。 一生、俺のために歌え。  気が向いたら歌手デビューさせてやるよ。」 そんな事を言われた。  束縛を何より嫌う粟生は、逃げ出した。 一緒に暮らしていた男はビビって先に逃げていた。  一人で何日か、過ごしたが、パパ活もうまく行かず、この九十九里に来たという。  海で死のうとしたらしいが、怖くなったと言った。 「岡本さんに見つかったら、どの道殺されるか、それより酷い目に合わされる。」 自分で死ぬ方がいい、と思ったという。  咲耶さんのロックバー、が出来てきた。もう大体完成だ。  オショーはDJタイジから話を聞いて、ギタリストの犬遠藤さんが探している孫は、粟生に違いないと気付いた。  粟生はおじいさんに会いたくない、と言っている。粟生に話すと嫌がって逃げ出すかもしれない。みんなの顔合わせの時、偶然を装って連れて行く事にした。

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