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第76話 顔合わせ

 顔合わせの日、色々な提案が出た。 「ロックバーの開店に合わせて、いっその事、お祭りにしようよ。  柿落とし(こけらおとし)のフェス! 誰でも参加出来るように。 伝説のウッドストックみたいな。」  鉄平が言い出した。 「鉄平、そんな昔のフェス、知ってんのか?」 「ネットで見たんだ。 お店だけで入りきれなかったら海岸にもなだれこんで、さ。」 「最高のロケーションだ。」 「この町の財産は九十九里の海だから。」 「どこにも真似できない、素晴らしいやつをやろうよ。」  ここで古くからサーフショップをやっている、髭がトレードマークのコージさんが来ていた。彼もオショーの同級生だ。  地道にサーフィンを続けて、今は若いサーファーを応援している。  彼を見ていると、継続は力なり、という言葉を思い出す。ブームなんて関係ない。  コージさんが好きなのは1930年代に活躍した伝説のサーファー、ハワイの英雄デューク・カハナモクだそうだ。 『今、良い波が来なくても、いつかはその時が訪れる』という彼の言葉が、人生そのものだ、といつも言っている。    まだ、打ち合わせの段階からすごく盛り上がっている。    打ち合わせに来ていた犬遠藤さんを見て、粟生は逃げ腰になったが、そばにいたナナオに捕まった。ナナオは力持ちだから、粟生は逃げ出せない。 「犬遠藤さんは、咲耶さんの家にいらっしゃるんですね。」  オショーの言葉に咲耶さんが 「部屋が空いてたし、ウチの大角とこちらのディーキーが仲良くなったのでね。」 「初めまして。犬遠藤と言います。 お話は伺っていました。」 「お孫さんを探しているんですよね。 粟生、こっちにおいで。」  ナナオに手を繋がれてしぶしぶこっちに来た粟生を見て 「粟生、久しぶりだね。どこにいたんだい? パパもママも心配してるぞ。」 「おじいちゃん、パパに言いつけるの?」  強気で突っ張っていた粟生が16才の女の子の顔に戻って、ナナオの手を強く握った。  ナナオは驚いている。 「私と少し旅をするかい? それならパパも安心するだろう。 おまえはまだ、未成年なんだから。」 「いやだ。ここを離れたくないよ。 この町にいたいよ。」  粟生は五月雨に心を奪われている。どこにも行きたくない。 「確かに、ここは面白そうな所だね。 しばらくここに住むのもいいかな。 じゃあ、住まいを探そう。」

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