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第79話 ハコバン

 仕事が終わった五月雨が『無頼庵』に顔を出した。琥珀のミニスカートに 「ダメだ、これはダメだよ。 琥珀は僕にとって特別なんだから誰にも見せてはダメだ。」  さっき、試しに着てみたスクールガール風のコスチュームのままだった。超ミニのスカートからTバックのお尻が見えそうだ。  五月雨は急いで自分のコートで琥珀を包んだ。 琥珀のあまりの可愛らしさとセクシーさに、どうしていいのか混乱してしまった。長いコートで琥珀を包む。 「琥珀、僕を困らせないでくれ。」  意外だった。五月雨は怒っているのではなく琥珀に懇願している。 「ごめんなさい。ロックバーの開店に合わせてコスプレしようって話してたんだ。」  そこに鉄平が走ってきた。 「琥珀、メイ先生帰って来た? 咲耶さんが呼んでる。なんかバンドの話だって。」  琥珀を抱いたまま行こうとする五月雨に 「メイ、俺も行くのか?このままで。」 「僕は離さないからね。行こう。」  肩を抱かれて五月雨のコートで包まれて歩いて行った。  数軒先のロックバーにいた咲耶さんが 「まあ、カムアウトしたのかい?」 「いや、これには色々事情があって。」 「いいの、いいの、多様性ってやつだろ。」  店の中に向かって 「崇ちゃん、バンドのドラマーが来ましたよ。 メイ先生、こちらギタリストの犬遠藤さんよ。 知ってる? なんか有名な人なんだね。」 「初めまして、犬遠藤です。孫がお世話になったようで。」  後ろで小さくなっている粟生に手を引かれて、ナナオまでついて来た。 「お世話なんて僕は何も。 粟生さんは僕の母の所にいたようですが。」 「それは、お母様にご挨拶に行かなければ。  皆さんのお世話になって,無事に暮らしていたのか。子供だなぁ。  ご迷惑をおかけしました。」 それでも、孫はかわいいらしい。  五月雨は琥珀を心配して 「大丈夫かい、寒くないか?すみません,中に入りましょう。」  出来たばかりのロックバーに入って行った。 「素敵なお店になりましたね。 琥珀、そこのソファに座ろう。」  なんだか琥珀は場違いな気がして恥ずかしい。 でも五月雨は堂々と悪びれず、琥珀を気遣ってくれるので嬉しかった。

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