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第82話 辞職
五月雨はもうゲイであることを隠さない。何かがプツンと切れた気がする。
中学教師を辞める覚悟をした。阿南先生にだけ相談した。
「阿南先生は偏見をお持ちですか?
僕は男しか愛せないんです。」
「私の事より、まず教育委員会が認めないだろう。日本の教育者はまだまだ頭が固い。」
阿南先生は困った顔をした。もう、ウワサが広まっている。五月雨には、隠す気がない。
「辞表を出します。後は残務整理だ。
今年は担任を持っていないから何とかなるでしょう。」
「いや、ちょっと待て。話が進みすぎる。
生徒に何と説明するつもりだ。」
「それこそ多様性ですよ。潜在的にゲイを自認している子もいるのじゃないでしょうか。」
「だとしても大人は理解が追いつかないな。」
五月雨は部活の顧問もやっていない。教職を去ることは何とかなると思っていた。
「今までのキャリアを捨てるのか?」
阿南先生は心配してくれた。
「音楽で食えるといいなぁと思ってます。」
「その年でそれは甘いな。」
阿南先生は呆れていた。
体育会系の超常識人の阿南先生を混乱させるつもりはないが。
「早く身軽になりたいですね。」
いずれ生徒にも話さなければならないだろう。
琥珀とたくさん話し合った。
琥珀は自分の仕事を始めたことで、落ち着いていた。
悪意の噂を広めているのは、粟生だった。
咲耶さんのロックバーに入り浸って、来る人みんなに話している。
「中学の先生が、同性の男が好きだ、なんて許されないでしょ?どう思いますか?」
お客さんに話す。みんな興味本位で乗ってくる。
粟生はいかにホモが気持ち悪いか、いつも力説した。
犬遠藤さんがそのことを知って
「バンドが分裂するような事を広げるな。」
と、叱っても止めない。
いつもロックバーにたむろして、五月雨の悪口を言い募る。
咲耶さんが怒りを爆発させた。
「犬遠藤さん、どうにかならないの?
あんたの孫は心が腐ってるよ。」
「許してくれよ。バンドは振り出しに戻そう。」
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