「俺がいるから、メイは教師を辞めなければならないの?」 　琥珀の心配に五月雨は笑っている。 「辞めたかったんだよ。ずっと前から、ね。」 　そう言って優しく抱きしめてくれる。二人はもうほとんど同棲している。 　玉梓もオショーも公認だ。 琥珀だけが何か自責の念に駆られている。 「気にしなくていいんだ。僕は今幸せだよ。」 二人の暮らしは夢のようだ。 「メイ、俺は何をすればいい？」 　咲耶さんがバンドの行く末を案じている。 あんなヴォーカルはもう見つからないだろう。 粟生は上手い。 「粟生ちゃん、あんた何がしたいの？」 「別に。 バンドのヴォーカルいないと困るでしょ。」 脅かしてくる。ドラマーならトオルがいる、と言い出した。 「冗談じゃない。素行の悪い人はお断り。」 「でも、試しに演奏を聞いてみてよ。」 　数日後、トオルを呼んだ。 ドラムをフルでセットして五月雨とトオルのオーディションを行なった。 　ドラムのセッティングや細かいチューニングは全部五月雨に丸投げだった。 　店にもあの五月雨のシルバースパークルと同等の素晴らしいドラムセットを選んでいる。 　演奏は勝負にならない。トオルはとんだ恥知らずだった。プライベートでほぼ毎日ドラムを叩いている五月雨の演奏は素晴らしかった。 　あの犬遠藤さんが絶賛する。 「ヴォーカルを探そう。心根の腐った人間とはやっていけない。」 　咲耶さんがはっきり言った。 「崇ちゃん、気を悪くしたなら、参加してくれなくても仕方ないね。どう思う？」 「確かにお恥ずかしい限りだが、粟生ばかり責められても、何か不愉快なんだが。」　 「ああ、確かにそうだね。 バンドの件は白紙に戻そう。ハコバンなんか急がないよ。」 　粟生が一人でかき回して問題を広げているのは事実だ。不協和音を作り出しているのは粟生の横恋慕の結果なのだ。五月雨を、教師を辞めるところまで追い詰めて楽しんでいるように見える。 　そばで聞いていたラッパーたちが粟生を見た。 ナナオが 「粟生、それでいいのか？」 優しく聞いた。 「みんなどうしてあたしばっかり責めるの？ ホントのこと言っただけじゃん。」 　泣きながら、外へ出て行った。 ナナオが追いかけた。