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第84話 粟生とナナオ

 粟生はみんなに責められると思い、飛び出した。自分は悪くない、と考える。  ナナオが追いかけて来ると思っている。中々来ないので、ナナオの意向などお構いなしに呼びつける。ナナオは混乱していた。  海岸で二人並んで座っている。 何の反省もなさそうに粟生は勝手な事を言っている。 「ナナオって、女の子と付き合った事ないでしょ。童貞?アハハ、今時チェリーボーイなの? あたし、やらせてあげようか?」  粟生の無神経な言葉にナナオはイラついたが、ある意味事実でもあった。 「何言ってんだよ、くだらねぇな。 そんな事しか言わないんなら俺帰るよ。  追いかけてもらいたそうだったから来てやったけどな。」  吐き捨てるようなナナオの言い方に粟生は傷ついた。 「男なんてみんなやりたがってんじゃん。 あたし、東京にいた時、パパ活で寝るところに困った事ないよ。  みんなセックスしたがるけど、その時だけは男って優しくなるからイヤじゃなかった。  ナナオはあたしのクマさんだから特別にタダでやらせてあげる。」  「いらないよ。なんかおまえは汚らしい。 有名な犬遠藤さんの孫だから、丁寧に応対しただけだ。  俺は愛を信じてるんだよ。 愛してない人と、セックスなんかしたくない。  おまえは人を愛した事があるのか?愛された事があるのか?」  ナナオに怒鳴りつけられて、粟生は何故か、琥珀を激しく憎んだ。  ナナオが帰ってしまった。置き去りにされて死ぬほど寂しい。でも、粟生がどうしても手に入れたいのは、メイ、だった。  犬遠藤さんが手を引く、というのでハコバンの件は止まってしまった。  オーディションに落とされたトオルは金にならないと腹を立てた。あんな演奏しか出来なかった事を恥じるべきなのに逆恨みもいい所だ。  新宿に帰って粟生を探している組関係の人間に情報を売った。翔が真っ青になって心配している。 「粟生はどんな酷い目に合うかわかんないぜ。 トオルはひでぇな。」 「うるせえ!ムカつくんだよ。  粟生のじいちゃんってあの有名なギタリストの犬遠藤崇彦なんだって。  金引っ張れるぜ。ちょっと口止め料、頂こうぜ。孫がウリ(売春)やってたってバレたくねぇだろ。」  ヤクザ者に売るより金になる、と考えた。

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