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第85話 岡本さん
極成会の岡本さんが粟生を探しているという噂は歌舞伎町界隈では知らないものはいない。
組関係の人も岡本さんに止められて手を出さなかったが、おもしろくない。あんな小娘一人にずいぶん金をかけた。ホストの売掛だけでも取り返したい。
「粟生って何したの?
怖い人たちが探してる。アタシたちも脅かされたよ。知ってて隠したらどんな目に合うかわかんないよ。」
「でも知らない。一緒に暮らしてた健太って子は見つかって、その後、どうなったかわかんないって。」
「溶かしてアスファルトにされるって噂。」
「本物のヤクザ、怖い。粟生はバカだね。」
粟生は人を舐め過ぎだ。トオルは助けてくれない。人を助ける余裕は無い。
簡単に裏切る。自分のためなら親も売り飛ばす。情報を持っている、と意気揚々と九十九里から帰って来た。
岡本さんの事務所に顔を出す。褒めてもらおうとまるで尻尾を振っている犬のようだ。
「岡本さん、粟生の居場所、わかりましたぜ。
千葉の海岸だ。九十九里。奴は祖父様(じいさま)と一緒にいましたよ。」
「ほう、祖父さん(じいさん)と、か。」
「それが結構有名な祖父さんで。知ってますか?
犬遠藤崇彦って,ギタリスト。ギタリストの中では大御所ですよ。」
「粟生はその孫だって?」
それで歌が上手いのか、と岡本さんは納得した。
「面白いな。使いようによってはかなり、金を引っ張れる。健太のように簡単には始末できないね。利用価値がある。」
トオルも噂は聞いていた。この頃はコンクリート詰ではなく、溶かして熱いアスファルトに混ぜて道路にされるらしい。
そうなると簡単には見つからない。死体がなければ殺人事件は成立しない。
不要の小物はこうやって始末されるらしい。
(健太の溶けた道路なんて歩きたくねぇな。)
トオルは小物のくせに腹黒い。ヤクザに健太の居場所をチクったのもトオルだった。
孫の不始末を逆恨みして、バンドから手を引いた犬遠藤さんも酷い人だ。
『咲耶さんのロックバー』に集まる仲間たちはがっかりした。
「有名な人に乗っかろうとしたバンドメンバーも恥ずいな。もっと地道にやるべきだ。
俺たちでフリースタイルラップを盛り上げようよ。」
鉄平の意見にその場にいたメンバーが同意した。
「メイ先生は教師を辞めるんだって。
琥珀と愛し合ってるって言ってた。
もう誰も付け入る隙はねぇな。」
「みんなで応援しようぜ。
ジョー先輩もサブもだ、、」
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