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第87話 ラクダ
五月雨が若い頃。大学を卒業して帰国した頃の事。オショーから言われた事があった。
「この神社には色々な秘密があるから、ここを離れないで欲しいんだ。
私が死んだ後も、玉梓一人では荷が重いかもしれないから、助けになってやってくれ。」
「オショー、まだ大分先の話だよね。
僕はここに住むよ。
あのラクダにも言われてるから。」
「ああ、おまえはあのラクダが見えるのか。
やっぱり玉梓の子だね。半分は人間じゃない。
胸にしまっておくのだぞ。
普通の女では理解出来ないだろうから、結婚は無理かもしれない。
一人で生きていくんだぞ。覚悟はあるか?」
五月雨には理解出来ない部分もあるが、薄々感じていた事だった。
「神の采配か、おまえは類い稀な美貌を授かっている。女に不自由しないだろう。
でも、遊びだけでやめておけ。普通の人間にはおまえを理解出来ない。」
自分がゲイなのも、神とやらの気まぐれな采配なのか?
五月雨は全く信じていない神を思った。
琥珀が五月雨の家に来た頃、縁側から庭に出た事があった。
「庭を散歩してみたい。すごく広いね。」
「一人じゃ迷子になるよ。この庭は神社と繋がってるから危ないんだ。」
「じゃあ、メイが一緒に行って。」
履き物を持って来て二人で縁側に出た。
時々庭師の人が神社から全部の敷地を、手入れしてくれる。あまり堅苦しくないが整った庭だ。
手を繋いでドンドン歩いて行く。刈り込まれた槙の木が減り、杉の木が増えて来た。鬱蒼とした感じは神社の裏手に続くのか。
「あ、小さな橋がある。」
琥珀は,小走りに近付いてあのラクダを見つけた。
「気を付けろ!橋を渡ってはいけない!」
「凄い、大きなラクダの顔がある。
橋の番をしてるのかな?」
琥珀はラクダに抱きついた。
心なしか、ラクダが石ではなくなったような、血の通ったラクダ色に変わったように見えた。
ラクダは石である事をやめてニンマリしている。気持ちよさそうなふわふわの毛並みを見せている。
「こいつ、やめろ!琥珀に触るな!
石に戻れ!」
ワンワン、ワワン!その時ケノが走って来た。
いつもは神社の離れでシノと一緒に暮らしている。シノも走って来た。
ケノが琥珀の洋服を咥えて引っ張っている。シノも五月雨の着物を咥えて唸っている。シノは五月雨に慣れているはずなのに。
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