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第90話 人探し
「おまえが石田か?
まだ、盃も貰えてねぇんだってな。
本気で極道になりたいんだったら、新宿に来いよ。都会でやれよ。稼ぐにも、こんな田舎じゃ、たかが知れてんだろ。」
「はい、俺も新宿に行きたいです。
そん時はよろしくお願いします。」
「ところで、女探してんだよ。
粟生って知らねぇか?」
石田は粟生を知らなかった。白浜ベースの中で何があったのか、石田の耳には入って来ない。
「仲間を逮捕されて、自分だけ半年もバックレていい身分だな。」
省吾とキヨシを知っている同級生からは爪弾きになっている。
省吾とキヨシには前科が付いた。田舎ではまともに相手にされなくなった。全部石田が撒いた種だ。友達は激減した。
「そんな刺青入れて、もう堅気にはなれないね。」
世間の目は厳しい。あんな目に合っても、石田が頼れるのは極道の松田さんしかいなかった。
時々声をかけてくれるのは松田さんの舎弟の磯村だけだった。その磯村からの連絡で、大いに期待してすっ飛んで来た。
「この辺の悪そうな奴ならみんな知り合いですから、聞いてみますよ。」
白浜ベースの中に出来たロックバーに行ってみる事にした。
(昼間からやってんのか?
タイジってのがいるはずだ。)
イカゴクの河田と上岡もついて来た。
「こんちは。DJタイジいますか?
俺、石田って言います。」
へんなばあちゃんが出て来た。犬も唸っているからちょっと引く。
「タイジ、お客さんだよ。」
奥からタイジが出て来た。
人相の悪い輩が石田について入って来た。タイジは嫌な予感がした。
「白浜ベース、カッコよくなってきたね。
ラップバトル以来だな。俺の事、覚えてるか?」
「ああ、和彫りの。」
タイジは刺青を覚えていた。
「人探ししてんだけど。
粟生っていう娘、知らねぇ?」
タイジは
(知ってても教えないよ。)
と警戒した。
「わかんないな。」
「ああ、それじゃ、その辺、探してみるよ。
ありがとな。また、ラップやろうぜ。」
連れの二人に
「少し、ぶらついてみましょう。」
と言って出ていった。
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