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第91話 白浜ベースネットワーク
タイジは、オショーがハ犬士だと言ってから、この頃、急速に親しくなった仲間たちに一斉メールを送った。
「粟生を探して、人相の悪い男を連れて石田が嗅ぎ回ってる。気を付けろ!」
粟生は犬遠藤さんと家を借りて暮らしていた。
犬遠藤さんはここから都内のレコーディングなどに通っている。忙しそうだ。
ハコバンの話が流れてみんなは気分を害している。
「犬遠藤さんは有名な人で、俺たち一瞬舞い上がったけど、孫の事になると判断力のない、ツマンネェじじぃだな。」
「ガッカリだ。
メイ先生のルックスだけでも、ファンが出来てるけど。売れるバンドだよ。」
「粟生なんかのヴォーカル、あてにしないよ。
気分屋だし、いらないね。」
「じゃあ、おまえ歌えよ。」
「それは無理。」
「ラップで行こうよ。」
ロックバーに集まってみんな勝手なことを言っている。
「粟生って何やらかしたんだろ。」
ナナオが心配そうだ。
このところ、粟生は家でおとなしくしているようだ。実はわかっている、自分のヤバい立場。
(おじいちゃんがいるから変な事しないよね。
おじいちゃんは偉いんだから。)
本物のヤクザを手玉に取って甘く見てはいけない。今は警察の取り締まりが厳しくて暴力団は雁字搦めのようだが、半グレが手足のように動く。掟破りの暴力集団は、一昔前の筋を通す極道とは一線を画す。
なりふり構わない圧倒的な暴力とその実行力。
粟生は退屈していた。トオルも新宿に帰ってしまった。翔も、だ。残ったのはハヤシだけ。
ロックバーで、手伝いながら、ベースを練習している。時々は五月雨も来てドラムとベースでセッションしている。
「あーあ、ギターとヴォーカル、惜しい人材だったな。」
「もう言わないで。胸糞だから。」
そこにひょっこり、粟生が顔を出した。
「ねえ、あたし退屈してるの。
何か歌ってあげようか。」
上から目線の言い草だ。外から五月雨のドラムの音が聞こえたので、思い切って入って来た。
DJタイジが心配そうに見ている。
「ナナオ、仲間に入れてよ。」
ナナオは御し易いと舐めている。
「俺を甘く見るなよ。
俺たちはラップやるんだから、歌手はいらないんだよ。フィメールラッパーのサイコもいるし、な。」
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