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第92話 ディーキー

 粟生のそばにはいつもディーキーがいた。頼りになるボディガードの猟犬。 (メイ先生、ドラム叩いてる時も素敵だわ。 久しぶりに会えた。あの忌々しい琥珀もいない。 チャンスだ。)  粟生は悪びれずドラムセットから降りた五月雨の腕を取って抱きついて来た。 「やめなさい。馴れ馴れしいなぁ。」 「お隣に住んでた仲じゃない。 先生、冷たいわぁ。」  玉梓の所にいた時何回か見かけただけだが、まるで一緒に暮らしていたようなことを言う。 「粟生、おまえ何やらかしたんだよ。 ヤクザもんが探してるって。石田がパシリにされてた。」 「え、もうここがバレてんの? あ、トオルがチクッたな。」 「おじいちゃんのところに帰れよ。ウロウロしないでおじいちゃんに守ってもらえ。」  ナナオに説教されてふてくされている。 そこへ石田が戻って来た。粟生の顔は知られていない。 「粟生って娘、来たら俺に教えてくれ。」 粟生がとぼけて 「お兄さん、すごい刺青入れてるね。 見せてよ。」 「ここで脱ぐのはちょっとなぁ。」 「じゃあ、ウチに来ない? 今日はおじいちゃん、東京で仕事だから。」 五月雨に見せつけるように石田と腕を組んで店を出て行った。 「あの子が粟生だとわかったら、酷い目に合うんじゃないか? 石田はもうカタギには見えないな。」 ナナオも心配そうだ。 「大丈夫。ディーキーがついてるよ。」 鉄平の犬、シンベヱが言った。 「危なっかしい娘だな、家に連れてったぞ。」 みんなが顔を見合わせた。五月雨も心配そうだ。 「メイ先生への当てつけだね。 ガキ丸出しで迷惑だけど、あのまま放っておいて大丈夫かな。」  ナナオが気にしている。ナナオは再三誘われても断って来た。  いつもセックスを餌に男をいいように使おうとする、甘い考えの娘だ。今日は保護者の犬遠藤さんがいないらしい。 「どうする?」 犬たちが 「俺たちが集まってみんなで様子を見に行くってのはどう?」 心強い提案だった。

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