94 / 256
第94話 本気で殺しに来た
「ディーキー、食べろ!」
飛びかかった。河田は驚いている。
「俺が食われんのか?」
粟生はディーキーに攻撃を「食べろ」と教えて来た。餌を食べる時は「伏せ」と言う。天の邪鬼な粟生の性格が、いつもひとひねり違う言葉を教えていた。
人語を解するディーキーは、その意図を汲みとって迅速に動く。超賢い犬だった。
上岡が拳銃を取り出したが、あっという間に、ラブラドールレトリバーのデカい荘助に飛びかかられてチャカは遠くに飛んで行った。
残念な事に日本のヤクザは銃の扱いに慣れていない。
「こいつ、本気だ。あたしを殺そうとしてる。」
粟生はブルブル震えが止まらない。
河田が
「馬鹿野郎、何やってんだよ。
あんたが粟生ちゃんか?岡本さんも怒っちゃったよ。誰もあんたを助けないよ。
ここで死ぬか、どうする?」
ディーキーが飛びかかって来た。
「俺、犬苦手なんだよ。離せよ。」
振りほどこうとしてもガッチリ歯が食い込んで腕から離れない。
「痛え!食いちぎられる。」
デカい荘助と大角の兄弟犬は男たちをねじ伏せた。
拳銃が自分の前に飛んできた石田は、震える手で構えたが撃ち方を知らない。ガチャガチャやっているが安全装置が解除されない。
シンベヱに手首を噛みつかれ、離さないので痛みに銃を手放した。
落とした銃を絶妙な足さばきで蹴り出したのはイタグレの小文吾。そのスレンダーなドリブルをゲンパチに繋ぐ。
やっとみんなを連れて五月雨がやって来た。
銃を拾い上げてチンピラたちを威嚇するように空に向けて一発撃った。
五月雨は学生時代、銃の練習を何度もした事がある。さすが、銃社会のアメリカにある大学だった。扱い慣れた銃さばきはカッコいい。
粟生が見惚れている。
「誰か、この犬を離してくれ。」
犬に咬まれて半泣きのヤクザ達だった。
連絡を受けて後から来たオショーが警察を呼んだ。東◯警察は大騒ぎだった。
日頃大きな事件もあまり起こらない田舎町でも、ヤクザの抗争には神経を尖らせる。
組対から、◯暴から、所轄では足りない、本庁からも応援がやって来た。
16才の小娘が起こした事件は思わぬ大騒ぎになった。
有名な犬遠藤崇彦の孫だという事で、マスコミも連日やってきて、白浜ベースは有名になった。
結局、家出少女に法外な売り掛けをして風俗に沈めるトオルたちも芋蔓式に逮捕された。
気になったのは、殺されてアスファルトにされたと言われていた健太の事だ。粟生の元カレ。
健太は別件でトオルと共に捕まっていた。
「生きてたんなら良かった。」
粟生が珍しく殊勝な顔で言った。
ともだちにシェアしよう!

