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第96話 三郎
この頃の三郎は一つの考えに囚われている。
この広い宇宙の、人間が観測出来ている範囲に地球と同じような青く美しい星は見つかっていない。水の惑星。
何故、地球だけが美しく生命に溢れているんだろう。
「ねぇ、ジョーはどう思う?」
ジョーの腕に抱かれて色々な話をするのがこの頃のサブの幸せだ。
「なぜ、地球には生命がごった返しているんだろう。限りある身体を持った生物が、生きるために殺し合う星。
『美しい青い地球』は殺戮の星だ。他者の命を食らうことでしか、生きられない。全ての生き物が殺し合う。こんな宿命を背負わされた星は他にないだろう。稀有な存在だ。
「何のために?」
地球は流刑地のようなものなのか?何故?誰がそんな事決めたんだ?
神が決めた、と言えばわかりやすいが、それは違う。言わば自然現象だ。
神のような絶対者がいて、導いてくれるなら、どんなに楽だろう。それで地球には宗教が大量生産される。
「サブ、大丈夫か?
頭がオーバーヒートしてしまうよ。」
ジョーは優しく抱いて話を聞いてくれる。もう他に何もいらない、と思う。
サブにとってジョーはかけがえのない人になった。
ジョーの部屋に通ってくる。ジョーの母さんは優しくて温かい人でサブは大好きだ。
「サブちゃん、夕ごはん食べていくでしょ。」
いつも声をかけてくれる。
ジョーの部屋のベッドで二人、抱き合ってゴロゴロしている。
「サブ、この頃時間がないって言わなくなったね。」
「うん、ジョーといる時間が大切なんだ。
前はいつも、一刻も早く本を読まないと生きてるうちに終わらないって焦ってた。
でも、今はジョーと一緒の時間は特別なんだ。」
笑って瞼にキスしてくれる。この手で抱きしめて確実にここにいるのを確かめる。
「不思議だ。前は生きるって寂しい事だと思ってた。今は寂しくないよ。
サブがいるだけで世界は満たされる。」
「そんな事言ってもらえるなんて、生きてて良かった。」
見つめあって舌を絡めて深いくちづけをする。
もっと科学を突き詰めて、発展したその先には思念だけの存在がある。肉体の縛りを離れて自由に生きる。生体反応からの自由。
不完全で脆弱な肉体を捨てて後に残るのは精神、思念なのか?
「それじゃ、愛し合えないよ。」
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