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第98話 ホーンセクション
サックス奏者はメイ先生の中学の同僚、吹奏楽部の顧問だ。
「今日はサックス奏者の松崎さんに来ていただきました。
彼とは教師になって以来の長い付き合いなんです。ウチの学校の吹奏楽のレベルを格段に向上させた人なんです。」
「あ、どうも。サックス馬鹿の松崎です。」
「松ちゃん、すごく謙虚だけど、僕が出会った中で最高のサックス奏者です。」
松ちゃんは犬遠藤さんを見て感激している。
「凄い。本物の犬遠藤さんだ。凄いバンドになりそうだね。」
「犬遠藤さんのギターとメイ先生のドラム。
ハヤシのエレキベースに松ちゃんのテナーサックス。粟生ちゃんのヴォーカルで決まりだね。」
咲耶さんが嬉しそうだ。
「ちょっとセッションやってみるかい?」
楽器は一応揃っている。
試しにドラムを叩いている五月雨がサマになっている。ハヤシがベースを繋いで音を出した。
松ちゃんはいつでもOKだと言っている。
粟生が犬遠藤さんの耳に何かを囁いて、曲が決まったようだ。
「I want it all ・・・」
粟生がいきなり歌い出した。
「クイーンの曲だ。みんなついてこれるかな?」
なんとなくセッションはグダグダだった。
「スコアを用意してくれ。事前に打ち合わせしてくれ粟生ちゃん。」
粟生は挑戦的にメイ先生と琥珀を睨みつけて叫んだ。
「だって全てが欲しいの。今すぐ欲しいの。
メイ先生、アタシを見て!アタシを愛して!」
粟生の叫びにそこにいた全員が固まった。
「粟生ちゃん、五月雨と琥珀には付け入る隙は1ミリもないよ。悪い冗談はやめな。面白くないよ。」
オショーが吐き捨てるように冷たく言い放った。
「粟生、人の物を欲しがるのは子供の時からだけど、これは失礼すぎるよ。」
犬遠藤さんの厳しい言葉に、粟生はロックバーを飛び出した。発砲事件まで起こした事を、少しも反省していない。
(どこに行ったって一人で生きて来た。
みんな馬鹿にして!許せない。)
粟生が許せないのは「みんな」ではなくて「琥珀」だった。
「メイ先生と琥珀がみんなから認められているのがイヤ!ホモのくせに。」
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