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第101話 まどろみ

 後ろから抱かれて目が覚めた。微睡みの中で、五月雨を見る。その端正な顔立ち。奇跡のような綺麗さだ。琥珀は信じられない。手を伸ばせば届くのだ。  その閉じた瞼を指でなぞる。形のいい鼻筋を触る。唇に指を触れると 「あっ。」 パクッと噛みつかれた。 笑って指を咥える五月雨。  その舌の動きがセクシーで堪らない。離してくれない。 「全部食べたい。」 「メイ、起きてたの?」  二人、朝のこのまどろみの時が好きだ。優しく髪を撫でられて胸に頭を乗せる。  この時がずっと続くといいのに。 「ゆっくりしよう。無職だから朝寝坊していいんだよ。」  抱き寄せて甘えさせてくれるメイ。 「全部欲しいの、って言ってた気持ちがわかる。 今すぐ欲しいって。」  琥珀は五月雨以外を知らない。 「恋したのはメイが初めて。 粟生ちゃんの気持ちが、今ならわかるよ。 独り占めして申し訳ないな。」 「じゃあ、分け合うのか?」 「イヤだ!誰にもあげない。」  もう一度強く抱きしめられて、起きることにした。ベッドから出る。  バスルームに行って身体を洗ってもらう。 いつも五月雨のなすがままだ。  バスローブを羽織ってキッチンに立つ五月雨がカッコいい。少し伸びた髪を乾かしてサラサラだ。メガネをかけている。それがまたカッコいい。 「朝ごはん、何が食べたい?」 「メイ先生。」 「っていうのは無しだ。」  トーストを焼き始める。 ゴツゴツした長い指が髪をかきあげ笑ってくれる。この上なく綺麗な顔。  ベーコンの焼ける匂い。卵を割り入れる手付き。  琥珀は(全部好き)とか思う。 コーヒーメーカーに五月雨の好きな豆をセットした。オレンジジュースをグラスに注ぐ。 「イングリッシュスタイルの朝食だ。」 「イギリスなら紅茶だね。 僕の大学時代の友人が紅茶の輸入会社をやっているんだ。今度紹介するよ。  サー・リチャーズ商会って知ってる?」 「うん、有名な紅茶屋さん。 カッコいいポスターがあったよね。 綺麗なモデルさんが話題になった。」 「ああ、彼はロジャーの嫁だ。」 「えっ、友達もゲイなの?」

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