107 / 256

第107話 下◯沢 2

 駅前の再開発で昔の雰囲気は薄れたが、老舗のジャズバーは健在だった。有名なM子ママは亡くなったが店はまだやっている。  ライブも出来る店内は壁中レコード棚で、レコードがぎっしりだ。 「いらっしゃい。 あら、サイコ久しぶりねぇ。」  オカマっぽいマスターが声をかけて来た。 「はよう! 今日はイケメン軍団を連れて来たよ。」 「ホントだ。みんなイケてる。カップル? サイコはお相手いないの?  引っ越しちゃって泣いてる男が山ほどいるよ。」 「やだなぁ、アタシはそういうのいらないんだから。今日はまだ早いからライブは無いのね。」  五月雨がレコード棚を見て喜んでいる。 「凄いコレクションですね。 今かかってるのはブルートレインだ。」 「そう、早い時間はみんな知ってるやつをかけるの。客寄せ、ね。」 「音響が素晴らしいから、ありきたりには感じませんよ。」 「コルトレーンだものね。」 「僕は学生時代によく聴いた。」  琥珀はその頃の五月雨に会いたかった。 (どんなに素敵だっただろう。) 「あら、あなた、見たことあるわ。あまりにもイケメンで覚えてるわ。  あの『再会』にいたでしょ。ハッテン場。」 「えっ?先生、下◯沢知ってるの?」 「ああ、『再会』っていうのはゲイバーなんだよ。僕の行きつけの、ね。」 「先生ってやっぱりゲイなんだ。」 サイコが驚いている。 「こんなイケメン滅多にいないから、有名よ。 すぐ噂になる。」  こんな所で暴露されるとは思わなかった。 周りが好奇の目で見ている。  五月雨は開き直って話をした。 「もう男はいらない。この人が僕の嫁だ。 琥珀って言うんだ。『再会』のママにも言っておいて。」    なんだか、絡んでくる奴がいる。サイコの知り合いのようだ。 「サイコ、今どこにいるんだよ。 おまえの彼氏を忘れたか?」  トライバル柄のタトゥーだらけの男が近寄って来た。仲間が奥に数人いる。 「アンタなんか彼氏でも何でもないよ。 キモいなぁ。」 「下◯沢のフィメールラッパー、サイコはもうやらないのか?」 「絡んでくるなよ。おまえダサいよ。」 男の顔色が変わった。

ともだちにシェアしよう!