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第112話 ナナオ
粟生がナナオの胸で泣いている。
「泣くのはおまえじゃないだろ。人の気持ちを考えた事があるのか?
いつも自分の事ばかりだな。」
そう言いながらもナナオは優しく粟生の髪を撫でている。
「あたしのクマさん、怒ってる?
あたしの事、嫌いにならないでね。」
「別に嫌いじゃないよ。」
うろたえるナナオにますます粟生は抱きついて来る。
「ナナオ、あたし琥珀に許してもらえるかな。」
「琥珀は大らかな男だ。怒ってないよ、きっと。
今まであの傷も隠してなかった。みんな知ってたけど琥珀を尊重して、あえて触れなかったんだ。
でも、メイ先生は絶対に許さないだろう。
俺がメイ先生でも、許せないと思うから。」
「ごめんなさい、ごめんなさい、
どうしたらいいの?」
弱気な粟生に
「しょうがないなぁ、俺も一緒に謝ってやるよ。
謝っても許されないかもしれないけど、な。」
「ナナオ大好き!」
(やべっ、カッコいい事言っちゃったな。)
正直者のナナオは女の子のしたたかさを知らない。
粟生は反省して歌に専念している。ナナオがお目付役になっている。
粟生はナナオに甘えて、この所、落ち着いては、いる。
ナナオはいつも粟生にへばりつかれて、少しうんざりしている。
(こんな痩せっぽちのチビ、俺のタイプじゃないんだよ。いつも懐いて来るから困ったなぁ。
鉄平たちも俺を誘ってくれなくなった。)
「ナナオ、あたしを抱かないね。なんで?」
このハッキリした物言いがイヤなのだ。
女の子はもっと奥ゆかしくあってほしい。
「おじいちゃんと暮らしてる家、あたしの部屋があるからそこでセックスしようよ。」
「俺はおまえみたいのはタイプじゃないの。
他を探せよ。」
「わかった、他の人に抱いてもらう。
ナナオの馬鹿!」
ナナオは理想と現実のギャップに打ちひしがれた。女の子に夢を抱いているのだ。
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