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第117話 琥珀と亮
『無頼庵』に寄って着替えて来た琥珀はトイレで亮と一緒になった。同じ男なのだ。トイレは二つ並んでいる。
華奢な琥珀は困ってしまった。なんだか恥ずかしい。
「大丈夫だよ。男同士だろ。」
いきなり抱きすくめられた。耳元で囁く。
「並んでしよう。」
「や、やだ、外に出るよ。」
「逃げないで。メイに見つかるよ。おいで。」
キスしてくる。
「やだやだやだ!」
「可愛い、涙が溢れるよ。
これ俺の連絡先。」
小さな紙を握らされた。
「おまえは、きっと来る。待ってるよ。」
急いで個室に逃げ込んだ。
亮の笑い声が聞こえる。
五月雨がドアの外で待っていた。
「琥珀、大丈夫か?」
「うん、何でもない。」
心臓の鼓動が激しい。気付かれないように祈った。
粟生がヒロシを追いかけまわしている。ヒロシは嫌がっている。
「ふざけんなよ。ホントに犯しちゃうぞ!」
「うん、ウチに来ていいよ。」
「もう,止めろ。淫乱か?」
粟生は嫌われている事に気付かない。なんだか哀れになってくる。
(あんなに歌が上手いのに、なんで飢えているんだろう。何が欲しいんだ?)
周りの人間は皆そう思った事だろう。
みんな楽しそうだった。
「また、来るからね。楽しかった。
下◯沢にも来てくれ。知り合いのバンドマンがたくさんいるから。紹介するよ。」
亮が見つめている。目が見られない。
騒がしく、派手な車で帰って行った。
「琥珀、おいで。」
家に帰って来た。五月雨に両手で肩を掴まれて目を覗き込まれた。
「まだ、秘密はないか?」
(どうしてわかるんだろう。俺何か変かな。)
「痛いよ、メイ離して。」
メイは琥珀の変化に気付いていた。あんな一瞬で何かがある訳ない、と思っても胸に黒いものが広がる。
亮は綺麗な男だった。
(奴もゲイなのか?)
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