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第128話 亮とミカド
五月雨は、琥珀の着流しがカッコいいと思った。五月雨自身も家では玉梓の仕立てた着物を着ている。和服は楽だ。夏は涼しいし、冬は重ね着が出来るので暖かい。
五月雨は今日はスーツ姿が素敵だ。
琥珀の着流し姿は、初めてだった。男性の着物。五月雨のためでなく、あんな奴と写真を撮るためだ、と思うと心がキリキリする。
犬たちが懐いているのも腹立たしい。
今日は友人のロジャーに聞きたいことがあって訪ねた。彼は大学に量子物理学の研究室を持っている。
五月雨も、自分の事、母の事、そして琥珀の事。学問上の見解を聞いてみたかった。
自分たちはどこへ行くのか。ゴーギャンの永遠のテーマだ。どこから来て、どこへ行くのか。
誰も知らない。
白浜ベースに帰って来た。『無頼庵』が賑わっている。
五月雨はいつも犬たちに吠えられるのが苦手だ。この頃少し犬たちが慣れてくれたと思っていたのに、今日はまた唸られてしまった。
「大丈夫だよ、シーッ、シーッ。」
あのミカドが亮と一緒に犬を落ち着かせている。ミカドが五月雨にいきなり抱きついてきた。
「メイ!逢いたかった。
この町に住んでいるのね。」
綺麗な男の人に抱きつかれた五月雨に琥珀は呆気に取られている。
「離せ!やめろよ。」
琥珀を気にして冷たい態度の五月雨に亮が
「ミカドのお得意さんなんだろう、メイ先生は。
どうしても逢いたいっていうから連れて来てやったんだ。」
「余計な事を!」
「ねえ、メイの家に行きたい。」
「とんでもない、おまえはプロだろ。
ストーカーなのか。プライバシーに土足で踏み込んで!」
「もう、男娼からは足を洗ったの。
メイが忘れられなかったから。
逢いたかった。逢えて良かった。」
「僕の私生活に入り込むな!」
「あの夜、抱いてくれたのに、今さら何言ってんの?」
琥珀はオロオロしてしまった。
綺麗な男が五月雨に抱きついている。
責めるように亮の顔を見た。
「ミカド、メイ先生には恋人がいるよ。」
「恋人じゃない、嫁だ。」
即座に答える五月雨。
「まあ、残念。この子がそうなの?」
琥珀を上から下まで値踏みするように見た。
それが五月雨を怒らせた。亮に
「おまえ、何のつもりだよ。
ここにミカドを連れて来て!
喧嘩売ってるのか?」
「まずい、メイ先生を怒らせた。」
白浜ベースのみんなはジョーから武勇伝を聞いていた。ケンカがものすごく強い事を。
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