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第129話 八犬士
亮の胸ぐらを掴んだ五月雨に
「およしなさい、五月雨。琥珀ちゃんが怖がるわ。」
玉梓の声に一瞬、手を離した。
騒ぎにロックバーからラッパーたちが出て来た。
「何だよ、喧嘩売りに来たのかよ。
キングクラッシャーだって?
九十九里、舐めんなよ。」
一触即発の雰囲気に犬たちが走って来た。
レトリバーの荘助と大角がデカくて迫力がある。その場が鎮まった。ディーキーも強そうだ。ドーベルマンに通じる顔つきの犬だ。
下◯沢のDQNチームが怯んでいる。中でもディーキーに恐れをなしている。
ディーキーの顎の力は半端じゃない。猟犬なので狙った獲物は離さない。噛まれたら最後だ。
「なんだよ、やんのか!
汚ねぇな、犬なんか使って。」
統制の取れた賢い犬たちが五月雨の命令を待っている。
「待て、座れ!」
五月雨の声に犬たちはおとなしく従った。
「犬をけしかけるつもりはないよ。
犬は白浜ベースの守り神だ。」
DQNの一人がナイフを取り出したのを見て、言った。
「くだらないオモチャを持ち歩いてるんだな。
あんたの教育かい?」
亮は恥ずかしそうにナイフを出しだ奴をぶん殴った。ナイフはすっ飛んで、そのチンピラもすっ飛んだ。
「みっともねぇもん、出して悪かったな。」
犬を刺そうとしたのか、とシノとケノが怒っている。
「冗談じゃないわ、野蛮ね。
八房だったら、刀にだって負けないわ。」
琥珀に聞こえる声で囁いた。
その場にいた人間なら犬の言葉がわかっただろう。カフェのサブには聞こえたらしい。
「確かに八房なら、戦国時代に里見の殿様と一緒に、敵将の首級を取ってきたと言われている。」
本で読んだ事を思い出した。でも八房は実体がない。八犬士たちはみんな知っている。
「何よ、アタシは会いたかったのよ。
ただそれだけ。」
琥珀に向かって
「あなたはいいわね、メイに愛されて。
独り占めして。」
粟生も来てディーキーを撫でながら成り行きを見ている。
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