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第130話 ロックバーから
ミカドが五月雨にしつこくまとわり付いている。粟生はそれを冷めた目で見ていた。
(かわいそうに。手に入らない男を好きになっても無駄なのに。)
ロックバーに集まったメンバーに
「バンドの名前、考えたよ。」
オショーが来ていた。
「白浜ブルースバンド、だ。」
その場にいたみんなが
「わあ!死ぬほどダサい!」
声が揃った。オショーのセンスはこの頃不評に終わることが多い。
「昭和のノリだ。」
「昭和生まれが多いんだよ。」
確かに高い平均年齢を粟生一人が下げてくれている。
「年寄り扱いするなよ。下◯沢の人たちは若いね。」
「ああ、ガキばっかり多くて。」
さっきのやり取りを恥じて亮が言った。
「みんな喧嘩っ早いんで、すみません。」
ハヤシがベースを繋いで音を出している。
「何か一曲やりますか。
オリジナルを準備中なんです。」
犬遠藤さんと松ちゃんも来ている。五月雨がデモ演奏を始めた。
少し伸びた髪をかき上げてドラムを叩く姿は、
ミカドでなくても惚れるだろう。
小さなフロアがある。鉄平たちがステップを踏んでいる。
懐かしさの漂う、70年代のハードロックを五月雨が渾身のドラムで叩き出す。
腕の筋肉がすごい。
「カッコいいなぁ、男でも惚れる。」
亮がそんな事を言っている。
曲が終わった。琥珀が五月雨にタオルを渡す。
汗ばんだ熱気をまとった五月雨はセクシーだ。
亮の隣にきた。
「すごいな、ミカドが惚れるわけだ。」
亮に向かってマイクを突き出した。五月雨の無茶振りだ。
「俺,楽器とか何も出来ねぇよ。」
差し出されたマイクに、亮は立ち上がってラップを始めた。DJタイジがノリのいいビートを回す。
「ヨー、オレはクラッシャー。
百戦錬磨、負け知らず。
叩き潰す、生身の身体。
何も持たない、生身で勝負。
訳知り顔で説教かよ。
説教、能書き、ラップは読経。
クラッシャーが成仏させるぜ。」
鉄平もナナオもサトウもいた。ジョーとサブも来ている。オショーが馬鹿受けしている。
「あはは、ラップは読経だって!
上手いな、女は愛嬌ってか?」
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