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第134話 亮とミカド

 九十九里、白浜ベースから帰って来た亮とミカド。  今まで当たり前にミカドを抱いていたのに、今はぎこちない。  亮は一人の人間に執着した事がない。 「俺のラップにもかかわるなぁ。 価値観が変わっちまった。」 「ごめん、僕が変な事言ったから?」  くちづけで言葉を塞がれた。 丁寧でしつこい。中々終わらないキス。  大きな手で髪を分けて顔を見る。 「そんなに見つめないで。」  亮がフッと笑った。 「おまえの顔、久しぶりに見た。美人だな。」  もう一度唇を塞がれた。 ここは一人暮らしの亮のアパートの部屋。いつもは誰かしら周りにたむろしている。今日は気を利かせてみんなどこかに散っている。  狭いベッドに腰掛けて、帰って来てからずっと、キスしている。  長い亮の髪がくすぐったい。手を伸ばして髪をまとめる。やっと唇を離した。 「ふうっ。亮ったら、激しい。思い出す。 初めて抱かれた時の事。」  金髪に染めたミカドの髪を指で梳きながら 「こんな顔してたっけ?」 「ばか、亮のばか。あんたは誰でもいいのね。」 誰かに夢中になった亮の話は聞いた事がない。 「おまえの顔、初めて見るような気がする。 見える世界の色が変わったな。」  亮は、それが恋に落ちた、ということだと気付かない。 「なに、それ。あーあ、お風呂に入りたい。」 「ここの風呂は狭いよ。 いつもそういう順番なのか?」  バシッ。ミカドに打たれた。 「ひどいよ。 もう商売は辞めたって言ったでしょ。」 「悪かった。俺、無神経だな。ごめん。」 やさしく、また、くちづけしてくれる。 (どうせ、僕は公衆便所だ。 優しくされる資格はない。)  悲しい思いになってしまう。 亮はどうやって愛したらいいのかわからない。 本当に大切だ、と思い始めたから。  髪を愛撫した。 「綺麗な髪だ。サラサラで。絹糸みたいだ。」 髪を持ち上げて首にキスマークを付けた。 「俺だけのものにしたい。」 初めて本気になった。

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