135 / 256

第135話 白浜ベース

『無頼庵』は繁盛している。 犬たちはここでは自由だ。犬嫌いな人は近寄れない。これでいいとオショーは言う。  五月雨もシノとケノに認知されて、他の犬も唸らなくなった。  五月雨はこの頃、ロックバーでドラムを叩いている事が多い。 『無頼庵』も近い。琥珀が仕事をしているのが見える。結構人の出入りが多い。  少し離れた所に三階建ての図書館カフェがある。ジョーが淹れる美味しい珈琲が飲める。  この頃、図書の整備で忙しい三郎だった。 サブの頭の中は混沌の極み、となっている。 「サブ、休憩しないか? あとはプロの司書さんに任せて。」  ジョーは心配だった。この頃のサブは、常軌を逸しているように見える。  一緒に検診に行くための予約を取った。  久しぶりの病院。主に開放病棟の多い明るい病院だ。一人ずつ、診察の後、二人一緒に問診を受けた。 「仲良くやってるね。図書館カフェ、評判いいね。 何か、心配事があるかい?」  サブとジョーがゲイのカップルになったのを知っている主治医だ。優しい言葉にジョーが 「サブの配信見てくれてますか?」  サブはこの前の書き込みに影響を受けて、鬱の闇に入っていた。 「精神のあり方の気づき、の話だったね。」 「影響受け過ぎだ、と思います。」 サブが抗議する。 「そんな事ないよ。精神の真理だよ。 生き方の最適解、の事だよ。」 「最適解、なんてあるわけないよ。」  主治医は 「まあまあ、どちらも無理に答えを出そうとしないで。  何か、薬を出そうか?」 ここは、患者の希望を聞いてくれる。 「いらないです!」  かたくなな、この頃のサブがジョーは心配だった。主治医は訊いた。 「三郎くんはなぜ、生きる事を追求したいんだい?」 「今、こうしている時も時間は過ぎて行くし、地球は、自転している。居ても立っても居られない気持ちになるんです。」  でも、ジョーには、二人愛し合っている時はそんな事から解放されているように見える。セックスしてる時って事だが。  生きる事が怖いと言うのか。そんな人はたくさんいる、と言うのは答えになっていない。 「先生、人間は何故生きるんですか?」  根源的な質問が出た。 「これには千差万別の答えが出る。 自分で探すしかないね。」

ともだちにシェアしよう!