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第137話 漫画エイトドッグス
「琥珀、まだ終わらないのか?」
家に帰ってコスプレの衣装を仕立てている。
退屈している五月雨がかまってくる。いつもはカッコいいクールなキャラの五月雨がちょっかいをかけてくるのが,面白い。
鈴木翁太の描いた漫画が話題になり、アニメ化されると、思惑通り白浜ベースは『聖地』と言われるようになった。
『無頼庵』のコスプレ撮影は休む暇がない。
オータの漫画のあらすじは
『和彫り野郎石田が神社の裏の石の橋に迷い込んだ所から始まる。黄泉比良坂のような所で九死に一生を得て、半年ぶりに生還した事が物語の核になっている。何故か、犬たちが絡んで来る。』
オータは犬がしゃべる事も、八房の事も知らないのだが、空想で物語は進む。
戦国時代の八房の活躍が織り込まれ、伏姫との悲恋のエピソードあり、コスプレの衣装のモチーフになっている。
和裁の得意な玉梓と、サムライ好きなこうちゃんの衣装作りが冴える。
「刀とか、ボール紙で作るよ。」
「もっと丈夫な素材があるよ。」
いろんな意見が飛び交う。
沖田総司が好きなこうちゃんだが、いつも桃太郎の鬼退治、と言われてしまうサムライ姿なのだ。
「可愛いサムライだね。」
和服をベースにした衣装は玉梓の真骨頂だ。琥珀も教わって家に持ち帰り、縫っている。
「はーあ、疲れた!肩凝った。
身体がバキバキだ。」
五月雨に肩を揉んでもらって気持ちいい。
「メイ、もう少しだから待ってて。」
夕食は五月雨が用意してくれる。料理は上手い。普通の和食、今日は鯵の開き、銚子産だ。
地産地消をモットーにヘルシーな献立を考えてくれる。小松菜と揚げのお味噌汁。蓮根のきんぴらは琥珀の大好物だ。里芋とこんにゃくの煮付け。ネギの入っただし巻き玉子。五月雨は顔はアメリカ人っぽいのに、こんな普通の和食を作る。
「メイのご飯、美味しかったよ。
ごめんね、いつも作ってもらって。」
笑ってハグしてくれる。
二人で暮らすこんな日常が尊い、と思っている。
「メイって何でも出来るんだね。」
「?何でもって?」
この頃、琥珀はメイに頼りっ放しなのだ。
「メイって何やってもかっこいい。ずるいよ。」
「じゃあ、大サービス。」
ピアノの前に座って、ゆっくり歌い始めた。
琥珀の好きな優しい歌。
「ほら、また、俺が出来ないことをして見せる。」
「ははは、琥珀が好きな歌を歌いたい。
琥珀を喜ばせたいんだ。
もっともっと琥珀が僕に夢中になるように。」
ピアノの隣に立って五月雨の耳元で
「こんなに夢中なのに。」
頬にくちづける。
立ち上がった背の大きい五月雨に抱きしめられた。もう何も考えられなくなる。いつもどこでも愛し合える二人だ。
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