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第140話 荒ぶる魂

 荒ぶる魂、と名乗るネットユーザーは、自称スサ、と言った。須佐之男命(すさのおのみこと)のつもりらしい。日本神話でも、乱暴者として姉アマテラスから、たしなめられていたという須佐之男命。  アマテラスを天の岩戸に閉じこもらせたのも、須佐之男命とされている。  その日、白浜ベースを一人歩いていたスサは、犬を見つけた。小次郎だ。カフェに行く所だった。ノーリードだが,賢い犬だ。 「よーし、よーし、こっちに来い。」 差し伸べた手を安心して嗅ぎに近寄って来た。  犬好きな人が集まる白浜ベースで、小次郎は油断していた。小次郎はチワワとペキニーズのミックス犬だが、チワワの血が濃いのか、小型犬だ。可愛くて弱そうだ。  頭を撫でられ、しっぽを振ったとたんに、腹を思いっきり蹴られた。 「ギャンッ!」 一瞬何が起きたか理解出来なかった。  優しい飼い主と幸せな毎日で、暴力など受けた事がない。人を疑った事などないのだ。 「あっ、おまえ何やってんだよ。 この野郎!待てよっ!」  鉄平が見つけて走って来た。 「ちぇっ、弱い犬はつまんねぇな。せっかくもっと虐めようと思ったのに。帰ろっ。」 スサは何食わぬ顔で帰って行った。  この所、動物虐待が頻発していると、駐在から回覧板が回って来ていた。 (ああ、ハ犬士だったら戦えたかな。 オイラは弱かったんだ。今度生まれてくる時は八房みたいなサムライになりたい。  サブに会いたいな。) 小次郎は死を覚悟した。 「コジッ!しっかりしろ。 ああ、なんてひどい事を。」  小次郎を抱えて、鉄平は必死に走った。 海岸の近くの昔からやっている獣医さんの所に連れて行った。幸いに一命は取り留めた。  内臓破裂の寸前だった。  スサは思い出す。 暗い出口のない所にいる。自意識が邪魔をする。  最初の記憶は小学校だったか。6.7才の頃だ。 「一緒に遊ぼう。こっちにおいでよ。」 と声をかけて来たのは、冴えない、弱そうな、不細工なガキだった。 (オレはこんな奴と仲良くしたくない。 これじゃ、教室の隅でいじけた者同士でくっついてるみたいだ。もっと主役級の友達を作るんだ。) そう思って無視した。  その冴えない奴は他のみんなにも片っ端から声をかけまくり、次の日には4人組の仲間が出来ていた。おとなしそうに見えた奴らも4人になると強気で威勢が良くなり、担任にも一目置かれ、クラスを牛耳る感じになった。 「なんか調子に乗りやがって。 ムカつくな。」  初めはそんな気持ちを抱えて冷ややかな目で眺めていた。 (オレはもっとカッコいい仲間を作るから、 ま、いいや。)

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