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第146話 衝撃

 数日後、あのスサっていう奴を、また鉄平が見つけた。犬に囲まれて唸られていた。動けなくなっている。 「ようっ、今日は何の用だ? 犬に嫌われてるぞ。」 「ごめんよ。オレ犬嫌いじゃないけど、ここの犬はオレを嫌いみたいだ。」 「蹴っといてよく言うよ。好かれるわけないだろ。みんな小次郎の仲間だから、おまえの事、怒ってるんだよ。」  スサはここに来れば誰かと話が出来ると思っていた。誰かが相手になってくれると。  ロックバーの前だった。店から下◯沢の亮とミカドが顔を出した。 「なんだ、おまえ、俺のシノちゃんに嫌われてんのか?」  亮は芝犬が大好きで、ここではシノと仲良しだ。シノの首を抱いて鼻をくっつけて挨拶している。 「おお、シノちゃん、会いたかったよ。 キミは賢いなぁ。」  鉄平から、コイツは犬を蹴るような奴だよ、と紹介されて、不本意なスサだった。 「なんでこの辺うろついてんの?」  唸る犬に囲まれて 「白浜ベースは誰でも来ていいんだろ。 何だよ。犬のしつけ、しろよ。」  寂しくて誰かと話したくてここへ来てしまった事をスサは後悔した。  首からタトゥーが覗くイケメンが、店から出て来たのだ。 「もちろん、誰でもウェルカムだよ。 音楽好きかい?ラップはどう?」  下◯沢の亮と名乗った。後ろに美少年がくっついている。 「僕はミカド。キミ、中々イケだね。ノンケ?」 「ノンケって?」 「わかんないならいいよ。」  犬たちは静かになっていた。派手な連中だ。 スサはビビったが話をしてみたい。今までこういう連中と知り合う機会は無かった。  亮という男が近づいてきて、いきなりスサを捕まえて、キスした。 「わっ、何すんだよ。」 「あはは、挨拶代わりだ。」  店に来ていた他のラッパーたちも驚いている。 「亮、からかっちゃダメだよ。」 スサは初めての経験だ。 (コイツらはいつもこんな事してんのか?) 「店に来たんだろ。入んなよ。 どうぞどうぞ。」  慣れないロックバーに足を踏み入れた。 何故か新参者のスサを受け入れてくれる雰囲気だ。時々犬塚神社でラップバトルをやっている噂は聞いていたが、陰キャの自分には関係ない、と思っていた。 「こっちに座る所あるよ。」 席を空けてくれた。店の中は大音量の音楽で、別世界のようだ。  DJが音を出してる。顔だけ知ってる鉄平に助けを求めて視線を充てるとニヤっと笑って無視された。 「何飲む?酒はイケるのか?」  スサはポケットの中の財布を握った。あまり入ってない。

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